2019.03.08

リーダーの条件Ⅰ 井原正巳

挑戦と成功、達成感が自信になる指示待ちではなく考える経験を
リーダーシップは社会を生き抜くために求められる資質だ。 しかし、それを子どもに教えるにはどのような働きかけが必要なのか。 サッカー日本代表をキャプテンとしてワールドカップ初出場に導いた井原正巳さん(柏レイソルヘッドコーチ)は 「教育で身につけさせることは難しい」 と話す。 世界に挑み続けた名主将が考える、リーダーの育て方とは。

「プロサッカー選手と接していても、リーダーシップを持って取り組んでいると感じる選手は少ない印象です。 良い選手の条件として心はとても重要。技術や強いフィジカルがあっても、気持ちが弱い選手は一流にはなれません。 選手を見る立場になってから、そこに物足りなさを感じてしまうことが多いですね」

井原さん自身は小学校から各年代の所属チームでキャプテンを任されてきた。”リーダーシップ”の原点を、そういった役目と責任感を経験する環境に恵まれたからこそ備わったと感じている。 だが、Jリーガーでも、リーダー(キャプテン)を経験して育ったとは限らない。育成過程の課題も感じている。

「日本の選手は、幼少期から指導者の”言うことを聞き過ぎ”なのではないでしょうか。 指導に身を任せて成長してきた選手は、”指示待ち”になっていることが多いです。 『やれ』 と言われたことを判断し、決断する力が不足していると感じています」

アビスパ福岡監督時代の井原さんは、キャプテンを置かないチーム作りを試した。 試合ごとにキャプテンを変え、多くの選手に責任感を持たせることが狙いだ。 実際、チーム内に自発的に考える習慣が生まれ、一定の効果がみられた。だが、根本的な解決には育成段階でのアプローチが必要だとみている。

「自発的にチャレンジし、成功体験を積み上げることで自己肯定感が芽生えます。 私の現役最終年に私が浦和レッズに所属していた時に入団してきた長谷部誠(前日本代表キャプテン)はリーダーシップのある選手ではなかったのですが、代表や欧州で実績を重ねるうちに誰もが認める日本のキャプテンになりました。 子どものころからそうした機会が与えられれば、成長できるのではないでしょうか」

多感な10代のうちに、どのような経験を積み、自信を育むことができるか。 その年代と接する保護者や指導者にはこうメッセージを送る。

「私はキャプテンをやっていたからこそ、スポーツ以外の面でも成長できました。 子どもに関わる立場の人たちには、ぜひ子どもに何かを発信するという機会を多く持たせてあげて、何かを成し遂げる達成感を多く経験させてあげることを大切にしてほしいですね」

井原 正巳

柏レイソルヘッドコーチ

Profile/いはら・まさみ。1967年9月18日生まれ、滋賀県甲賀市出身。滋賀県立守山高校、筑波大学を経て日産自動車へ。93年Jリーグ開幕後は、横浜マリノス(横浜F・マリノス)、ジュビロ磐田、浦和レッズでプレー。日本代表では大学時代から数えて通算122試合に出場。98年FIFAワールドカップフランス大会では主将を務めた。指導者としては、2008年北京五輪の日本代表コーチ、柏レイソルヘッドコーチ、アビスパ福岡監督を歴任し、今季から再び柏のヘッドコーチに。

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