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2020.08.21

有明コロシアム「15分44秒の奇跡」 #11

一滴のしずくはやがて川になり、大きなうみを形成する。滋賀レイクスターズもそうやって、故郷やバスケットを愛する者たちによって形を成してきた。この連載では、そんなバスケットマン(B-MEN)のサイドストーリー(B面)を軸に、レイクスの軌跡をひもといていく。

(構成・文:白井邦彦)

【B-MEN/B面】
第十一回:15分44秒の奇跡
2014-2015 SEASON PLAYOFF in ARIAKE

浜松に敗れた有明の初戦

2015年5月23日(土)、滋賀レイクスターズは初めて東京・有明コロシアムのコートに立った。西地区優勝をかけたカンファレンス・ファイナルの相手は、浜松・東三河フェニックス(浜松)。レギュラーシーズンでは2勝2敗と互角の勝負を演じていた。
第1Qから浜松にリードを許したレイクスは、その後も差を広げられ最終Qを7点ビハインドで迎えた。ここからレイクスが執念を見せ、残り約6分にテレンス・ウッドベリーの3点プレイで逆転に成功。一時は勝機が傾きかけたが、浜松のベテラン大口真洋に勝負所で3Pシュートを沈められ、結局77-82で敗れた。

何度も有明の舞台を経験してきた岡田優は「自分でも信じられないミスがあった。いつもとは違う心理状態だった」と肩を落とした。初優勝への想いが岡田から平常心を奪ったのか、それとも盟友・小川伸也の引退に花を添えたいという気持ちが硬さにつながったのか。敗戦のブザーを聞き、岡田はコートで崩れ落ちそうになったという。
なんとか倒れずに踏みとどまれたのは、多くの滋賀ブースターの姿に気づいたからだった。

「(試合後)客席を見たら、ほんとに多くの方々が滋賀から応援に来てくれているのが見えた。すごくうれしかったし、明日の3位決定戦で勝利を届けたいと思った。試合後すぐに気持ちを切り替えられたのは、レイクスを応援してくれている皆さんのおかげでした」

ロッカールームでは選手たちが悔し涙にくれていた。そんな彼らに岡田はこう語りかけたという。
「3位と4位では全く意味が違う。明日は(小川)伸也のラストゲームになる。勝利で送ってやろう」
有明ファイナルズ行きの功労者である横江豊は、その時の様子をこう振り返っている。
「準優勝も、3位も、4位も経験している岡田さんが言うんだから、やっぱり3位と4位では価値が違うのだと思った。尊敬する(小川)伸也さんを負けて送り出すわけにもいかない。絶対に勝利で終わろうと思いました」
そして翌日、忘れられない一つの奇跡が起こった。

小川伸也が“コートに戻る”

2015年5月24日(日)、3位決定戦。東地区の雄・岩手ビッグブルズ(岩手)を相手に、レイクスは試合開始早々から猛攻をしかけ、第1Q だけで21点リードと突き放す。その後も攻撃を緩めず、52-29で前半を折り返した。岡田はこの前半について「なるべく点差を広げて、伸也が出場できるシチュエーションを作りたかった」と振り返った。
チーム草創期からレイクスを支えてきた小川伸也は、2012-2013シーズン終盤に左膝を負傷し、その後は手術とリハビリを繰り返した。コートに立てない苦しさ、キャプテンとしてチームを助けられないもどかしさなどに襲われ、「心が折れるというレベルではない」という苦しい時期を過ごしてきた。
それでも「絶対にコートに戻る」と自分に言い聞かせ、懸命にリハビリを続けてきた。
そんな小川が岩手戦の後半からコートに立った。
「正直、アップもできないくらい膝が痛かった。遠山(向人HC)さんにも“自分を使わないで”と言おうと思ったくらい。でも、それを言えば、自分に負けたことになると思って、代わりにテーピングをぐるぐる巻きにした。膝の状況から考えて、コートに立てたこと自体が奇跡でしたし、そういう展開を作ってくれたみんなには感謝しかないですね」
小川復帰、その奇跡を作ったのはバスケットの神様ではなく、レイクスの仲間たちだった。
小川は15分44秒の間、純粋にバスケットを楽しんだ。最後は82-75でチームを勝利へと導いた。そして試合終了のブザーが鳴った瞬間、小川はふぅと息を吐きながらボールをコートにそっと置いた。

「(あのシーンについて)引退する歌手がマイクを置くシーンを思わせるだとか、後から言われましたけど、そんなカッコいい何かはないですよ(笑)。ただ、みんなと勝利を分かち合いたくてボールを置いただけです。その後、僕のところにみんなが集まってきてくれたのは本当にうれしかったです。あの瞬間は、自分の引退のことを忘れていて、勝ったことが単純にうれしかったですね」
その後、コートの真ん中で胴上げが始まった。号令をかけたのは岡田だった。宙を舞った小川には涙はなく、ただただ嬉しそうな笑顔があった。

このシーンは一つの時代の終焉を象徴していた。同時に、Bリーグという新たな時代へ向けた始まりも意味していた。次回は、B1リーグ参入に向けたレイクスの挑戦の舞台裏を追う。

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