2019.09.09
【シリーズ ひもとく】[延暦寺学園]比叡山高等学校・中学校・幼稚園①
国宝とは何物ぞ。今も息づく教育理念。
天台宗を開いた伝教大師・最澄を建学の祖とする延暦寺学園。
明治6(1873)年の開設から現在まで140年以上にわたって受け継がれてきた教育理念は「国宝とは何物ぞ」という大師の問い。
その精神は、強豪揃いの運動部にも色濃く根付いている。
一隅を照らす人を育てる
比叡山の山麓にある比叡山高等学校の校門前には「一隅を照らす」という言葉が掲げられている。これは最澄が比叡山の僧侶のために著した書である『山家学生式』の中に記された言葉で、「自分に与えられた役割をしっかりとたすことでまわりを明るくし、それが社会全体を明るく照らすことにつながる」という意味がある。延暦寺学園の根底に流れている精神は、自分の役割を考え、行動することである。
「一隅を照らす」を軸に比叡山高等学校の運動部を紐解くと、強いだけではない側面が見えてくる。例えば、学園の実践目標である”掃除・挨拶・学問”を重んじているソフトボール部は、毎朝校門に立ってあいさつ運動を実施している。今年7月には皇子山球場の清掃活動も実施した。
ソフトボール部の奥村淳二監督には建学の精神に支えられた経験がある。「私は野球がしたくて比叡山に入学しました。でも、1年生の頃にやめて、ぶらぶらしていた。そんな自分の姿を見かねて水泳部の先生が声をかけてくれ、有意義な高校生活を送れた。先生には感謝しています」
声をかけてくれた先生のおかげで、今の奥村監督がある。今も昔も”国宝とは何か”を問い続ける姿勢は変わらない。
勝利が必要なわけではない
比叡山高等学校は運動部が盛んだ。創部100年以上の歴史を誇る硬式野球部をはじめ、インターハイの常連である柔道部、水泳部、バドミントン部、ソフトボール部、剣道部、そして7年連続9回目の全国高校駅伝出場を狙う陸上競技部(女子駅伝チーム)など、強豪クラブを挙げるとキリがない。近年ではサッカー部、バスケットボール部男子、バレーボール部男子などの台頭も著しい。その影響もあって、体育祭のリレーがハイレベル化しているというから面白い。
ほぼ全ての運動部に共通しているのは、人間形成を優先する方針。春・夏通算13回の甲子園出場を誇る硬式野球部でも「人間形成が目的」 だと、河畑成英監督は言い切る。「目標は全国で勝ち上がること。目的は人間形成と分けて考えています。でも、目標に少しでも近づくためには技術や身体だけではなく、人間として精神の成長が求められる。最終的には目標と目的が一つにつながっていくと思います」
数野健太(本校教諭)や早川賢一(日本ユニシス)というオリンピアン(2016年リオ五輪)を輩出しているバドミントン部も方針は同じ。仲尾修一監督は、試合前の生徒たちに「勝利が必要なわけではない」 と伝える。人間形成を重んじる部の方針がにじみ出た一つのエピソードと言える。