2019.07.12
滋賀から世界のスポーツシーンへ。 貫かれる 「レカロ」 哲学。
指導者として、ボランティアとして、親として…。
スポーツは選手だけではなく、支える人たちの助けがあって初めて成立するもの。
連載[SOS]では、そんな縁の下の力持ちにスポットを当てていきます。
大切にしてくれる人を裏切らない
なぜ滋賀にアジアの拠点が…
「レカロ」 は1906年にドイツで生まれ、フォルクスワーゲン社やポルシェ社といった多くの自動車メーカーにクルマのボディを供給するカロッツェリア(車体製造メーカー)としてスタートした。 そして1963年に世界初のカーシートメーカーへと生まれ変わり、洗練された機能美で今も世界のクルマ愛好家たちを魅了し続けている。
そんな由緒あるメーカーのアジア拠点 「レカロ・ジャパン」 が、実は滋賀県東近江市にある。
レカロ株式会社 営業グループ マーケティングユニット マネージャー前口光宏さんは、その理由を次のように説明する。
「最初は京都に拠点がありました。当時は、ドイツ本国から完成品を輸入して自動車メーカーに供給していましたが、自動車産業のジャストインタイム方式(部品在庫を減らして生産計画に合わせた供給のみを日ごとに行う)普及に応じて、日本国内での開発・生産が必要となり、物流の面で地の利に優れた滋賀に拠点を移すことになりました」
以後、滋賀を拠点にアジアのマーケットを開拓。 同時に日本のプロ野球やJリーグといったスポーツシーンでも存在感を示していくことになる。
10脚買うよりも大事なこと
「レカロ」 のシートは、クルマだけではなく、旅客機や鉄道の座席などにも採用されている。欧州サッカーファンにとっては、選手が座るベンチとして馴染みがあるだろう。 1995年のFCカイザースラウテルン(ドイツ)に端を発するレカロのスタジアムシート文化は、現在世界16カ国60カ所以上に広がっている。
日本では2007年にプロ野球の楽天ゴールデンイーグルスが本拠地のベンチに採用したのが”レカロ スタジアムシート”の始まり。 2011年にはJリーグの川崎フロンターレ、2012年には大阪・長居陸上競技場と拡大していった。
「レカロのスタジアムシートは、とても厳しい品質基準のもと安全かつ快適に座ることができる自動車用のシートをベースに開発しています。 そのため一般的なベンチシートよりも非常に高額かつ必要以上ともいえる性能を備えています」 と前口さんは話す。
それでも多くのスタジアムで採用される理由はどこにあるのだろうか。
「これまで採用いただきましたスタジアムおよびチームの多くが、メジャーリーグのボールパーク構想であったり、欧州サッカーリーグの整備された環境を見習い、来場されるファンやサポーターの方々のために競技施設の環境改善にものすごく熱意をもって取り組まれているというのが共通しています。 欧州のサッカースタジアムをご覧になって、選手のために、ファンやサポーターの皆さんのために 『本物』 の価値をもつブランドでなければならないという強いこだわりを感じます」
次の100年も 「変わらない」
創業から100年が過ぎ、レカロは次の100年をどう見据えているのだろうか。 前口さんは 「例えば、人間の脚が4本になり、腕が8本になったら別ですけど、人間の身体の根本が変わらないのに、シートが変わる必要はないと思っています。 むしろ、変わっちゃいけないと思います」 と話す。
でも、”変わらない”のが、実は一番難しいと前口さんは続ける。
「”大切にしてくれる人を裏切らない”というのが、レカロのブランドプロミスです。 その考えはアスリートが座るベンチも同じです。 例えば、日本ならベンチに座るのは控え選手と捉え、選手たちはあまり座りたがらない。 でも、海外では何億を稼ぐ選手でもベンチを温めます。 そんな選手がベンチで長時間を過ごして、コンディションを落としたら大問題ですよね。 雪深いドイツやイギリスではシートヒーターを付けてありますが、それは何も寒さ対策が目的ではなく、本来は筋肉を温め疲れさせないためのものです。 そういう本来の目的や機能を見失わずに、これからもモノ作りを続けていきたい。 でも、時代が変わる中で”何も変わらない”というのが一番難しいんですよ」
レカロを本拠地に採用するということは、ある意味でレカロの哲学をも受け入れるということかもしれない。 大切にしてくれる人を裏切らない。 プロスポーツの世界にも共通する考え方である。