2022.03.01

現役レイキッズの超新星 薬師寺愛葉 [陸上競技 女子100m]

抜群の"ギフト"を持つ12歳 憧れはボルト、目標は夢の10秒台

湖国初の12秒台。親譲りの身体能力

 2021年6月、女子100mの滋賀県小学生記録(6年)が11年ぶりに更新された。しかも、湖国初の12秒台(12秒87)。大記録をマークしたのが滋賀レイキッズ第7期生の薬師寺愛葉(瀬田小6年/草津ジュニアアスリートクラブ)だ。「あの時は走っているというより、スーッと滑るような感じでした」と言う。まさに会心の走りだった。

 父は薬師寺利弥という。〝滋賀×薬師寺〞という組み合わせに反応した方は、根っからのラグビーファンだろう。名門・伏見工業高校で全国制覇を成し遂げ、東芝府中では日本選手権3連覇に貢献。引退後は俳優を経て、光泉(現光泉カトリック)高校ラグビー部を立ち上げ、現在も監督を務めている。2017・18年には高校日本代表の監督として世界と戦った経験も持つ。

 そして母は棒高跳で98年に日本記録タイ記録(3m80)を打ち立てた薬師寺夏絵(旧姓・松井)である。 思い出されるのは、10年ほど前に高校ラグビー滋賀県大会決勝を終えた後の皇子山陸上競技場の風景だ。父がマスコミ取材を受けている周りを幼児が無邪気に走り回る。それを母が追いかけるが、なかなか捕まらない。

 母の夏絵は「そうです。あの娘です。こんなに大きくなりました」と笑う。今、目の前でタータンを走る愛葉は、両親から素晴らしい〝ギフト(身体能力)〞をもらっていた。

陸上クラブで磨かれレイキッズで気づく

 薬師寺愛葉の最も優れている点はなんだろうか。小学4年から指導に携わってきた草津ジュニアアスリートクラブの林裕也コーチは「脚をさばく動きや地面から反発をもらう感覚などは天性のものがある。教えてすぐにできるものではないですが、最初から自然とできていました」と話す。

 とはいえ、元アスリートの母・夏絵から見れば「まだまだ身体能力に任せきり」に映る。林コーチは「長く競技を続けていくために、自分で自分を修正できるようになってほしい」と、選手としての自立を求めている。素地は一級だが、まだ原石ということだ。

 必要なものは自分と対話する時間かもしれない。その点で滋賀レイキッズへの参加はいいきっかけになった。

「滋賀レイキッズではフェンシングやアーチェリーなどいろいろな競技を体験させてもらい、スポーツって楽しいなと感じました。陸上競技に生かされているプログラムはコーディネーショントレーニングです。がむしゃらに動くのではなく、上半身と下半身の連動をイメージ通りに動かせるようになった気がします。少し苦手だったので、よかったです」

 もちろん、才能を磨いてきたのは本人の努力と所属クラブの指導である。ただ、環境を変えることで新たな発見もある。彼女にとって滋賀レイキッズは〝良い出会い〞だったと言える。

ボルトに憧れ、夢の10秒台をめざす

 昨年9月の「全国小学生陸上競技交流大会(日清食品カップ)」の女子100m(6年)で、薬師寺愛葉は3位(13秒01)に入った。2位との差はわずか0・01秒だったが、日本記録(12秒56)を出した1位の選手には差をつけられた。悔しい。だが、逆に「中学では勝ちたい」といいモチベーションにもつながっているようだ。

 中学での目標はすでに立てている。「1、2年でコンスタントに12秒台前半を出しつつ、全中で入賞。3年で11秒台を出して全中優勝です」。その先には、オリンピック出場といった夢が広がっている。

 憧れは男子100mの世界記録(9秒58)を保持するウサイン・ボルト。学校の授業ではボルトをモチーフにしたテープ台を作るほどの入れ込みよう。そんな12歳の目標は日本人女性初の10秒台とでっかい。滋賀の陸上競技界にまた一つ、楽しみが増えた。

薬師寺愛葉

草津ジュニアアスリートクラブ

やくしじ・あいは。2009年5月23日生まれ、大津市出身。瀬田小学校6年。小学4年から草津ジュニアアスリートクラブで陸上競技を始めた。2019年の滋賀県小学生陸上競技交流大会では女子4年100mを大会新で制覇、2020年はコロナ禍で大会中止が相次ぐも、翌2021年は日本陸上競技選手権大会(室内)小学生60mで2位、滋賀県小学生陸上競技交流大会の女子6年100mで滋賀県記録を更新した。続く全国小学生陸上競技交流大会の女子6年100mでは3位表彰台。滋賀レイキッズ第7期生。自己ベスト(100m)12秒87。155㎝。

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