2019.05.17
[パラバドミントン]ダイハツ工業 福家育美
「それを聞き直して原稿を書かれるんですよね。 私の笑い声ばっかり録音されていたら…すいません(笑)」
パラバドミントン日本代表強化指定選手の福家育美(ダイハツ工業)が言う”それ”とは、取材時に使うICレコーダーのこと。 実際、録音データには彼女の笑い声がいっぱい入っていた。
福家は二分脊椎症により両足と体幹機能が麻痺している。 3歳から車いす生活を送り、たくさん苦労もしてきた。 だが 「根っからの負けず嫌い」 がそうさせているのか、陰の部分が表に出ていない。 とにかく明るく、笑顔がステキだ。
ただ、話題がバドミントンになると急にトップアスリートの顔に豹変する。 例えるなら、ゆるキャラから劇画キャラくらいのギャップ。 福家がほぼ全ての情熱をバドミントンに傾けている証と言える。
取材中、特にシリアスな表情を浮かべていたのは、自分の課題について答えていた時である。
「相手陣内の奥にシャトルを飛ばす”クリア”というプレーがあります。 それが短いと相手を揺さぶれないのでラリーが不利になります。 私は(二分脊椎症の影響で)健常者のように体幹を使って打てないですし、海外の選手に比べて小柄でパワーもない。 でも、何か対処方法があると思って、昨年から国際大会で海外選手の打ち方を徹底的に研究してきました。 そして今年3・4月の国際大会(トルコとドバイ)で、ようやく”クリア”を遠くに打つための糸口が見えたような気がします」
研究はほかにもある。 たとえば、前のめりでシャトルを拾ったあと、すばやく上体を起こすための腕の使い方。 「体幹が使えないなか、中国の選手は車いすに片腕を残し、前のめりで打ち終わったあと、その腕の反動を利用して上体を起こしていました。 なるほどなぁと。 そういう研究を続けて、少しでも上達できる可能性を広げていきたい。 そして来年の東京パラリンピック(東京パラ)で金メダルを取りたいと思っています」
今年3月の 「第5回 トルコ パラバドミントン インターナショナル ENESCUP 2019」 から2020年の東京パラ出場をかけた選考レースははじまっている。 来年4月時点の世界ランキングに基づきダブルスは6ペア、シングルスは8選手に出場権が与えられる。ランキングを上げるには、国際大会を転戦しないといけない。 だから、福家が滋賀にいられるのは月10日ほど。 夫に苦労をかけ、2歳の娘を寂しがらせていると思うとつらい時もある。
「家族にも、所属先にも、結果を出すことでしか恩返しができないと思っています。 特に娘には寂しい思いをさせているので、なんとか東京パラで活躍している自分の姿を見せたい。 それが目標です」
そう話す福家の顔は、アスリートの顔から、母の顔がのぞいた。
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福家 育美
ダイハツ工業
Profile/ふけ・いくみ。1985年11月5日生まれ、長崎県出身。滋賀県守山市在住。二分脊椎症による両足と体幹機能の麻痺で3歳から車いす生活を送っている。高校2年からパラ陸上100m・800mで活躍し、2012年には両種目で日本一に輝いた。2014年にパラバドミントンに転向し、翌年には強化指定選手として国際大会に出場。2020年の東京パラリンピックでの金メダルを目指し、現在は世界ランキング対象大会を転戦。