2021.06.06
東京オリンピックへ。 いよいよ運命の時 新岡浩陽【カヌースプリント】
所属選手たちの2021 新岡浩陽 [カヌースプリント]
東京オリンピックへ。 いよいよ運命の時。
アジア制覇で五輪切符
2021年4月9日。カヌースプリント日本代表の新岡浩陽は、沖縄での長期合宿を経て久々に琵琶湖に戻っていた。滞在はわずか1日。翌日には滋賀を離れ、4月16日にはタイへ入国するという。ハードスケジュールを縫って滋賀に戻ってきた理由は、所属する滋賀レイクスターズの事務所に顔を出すため。
そして、東京オリンピックアジア最終予選の「カヌースプリントアジア選手権大会」への決意を表明するためだった。アジア選手権は5月5日から7日にタイのチョンブリで開催される。新岡は青木瑞樹(自衛隊体育学校)と組み、男子カヤックペア(K2)1000 mで優勝すれば東京オリンピック出場が決まる。「勝てば行けるし、負ければ行けない。シンプルで最も公平な選考。思考的には〝やるだけ〞ですね」と新岡は笑顔をのぞかせた。そこには自信のようなものがにじみ出ていた。
追加の1本が再現性のカギ
コロナ禍で昨年のアジア選手権が中止になった後、新岡は練習方法を見直したという。きっかけは昨年2月にハワイで行われたタイムトライアルだった。初めて青木(当時は福島・安達 高校3年)とペアを組み、「偶然ですけど、その時に3分14秒という未知のタイムが出た」と新岡は振り返る。
「自分と青木選手は技術で漕ぐタイプ。テンポも似ており、ハワイの感覚を再現できればアジア選手権を優勝できる可能性はあるなと感じた。3分14秒を当たり前に出せるように、目標タイムをもう少し速い3分12秒に設定し、練習メニューを組んできました」特徴的な練習が250mのインターバル漕だった。全力で漕ぎ、1分間休憩して再び全力で漕ぐ。これを5本連続で行う。しかも、1本あたりの設定タイムは3分12秒を4分割したハ イペース。それを4本ではなく、5本行うことがポイントのようだ。
「レースは1000mなので、距離的には250m×4本でいいんですけど、あえてもう1本増やしました。自分たちの限界を5本目に延ばすことができれば、3分14秒の再現性も高まると考えたからです」 偶然出た3分14秒を、アジア選手権では必然に変える。これが新岡が考えたテーマだった。
コロナ禍を逆算して挑む
昨年9月の日本選手権で初の公式戦に挑んだ新岡/青木ペアは、圧倒的な強さで優勝した。タイムは3分24秒 318。ハワイの記録には10秒届かないが、「いいフィーリングでした」と新岡は振り返る。その後、コロナ禍で難しい時間を過ごした2人だが、先述のようにアジア選手権を前に新岡は自信をのぞかせている。理由は何か。それを解く前に、アジア選手権ではタイ入国から2週間の隔離期間があることに触れておきたい。コロナ禍による水際対策の影響だ。
「自分たちがピークパフォーマンスを出すためには、3週間追い込み1週間リカバリー(回復)というサイクルがベストです。データ的にそういう結果でした。でも、アジア選手権では隔離期間が2週間もある。これをリカバリー に充てるとリカバリーが2週間になる。つまり、いつもの2倍。だったら、直前の追い込みも2倍にして帳尻を合わせないといけない。昨日までの6週間、しっかりと追い込んできました」
アジア選手権を控えた4月9日。新岡から自信が感じられたのは、人事を尽くしたからだった。あとは天命を待つだけ。「この日のために全てをカヌーに捧げてきました。あとは本番で〝やるだけ〞です」