2022.02.02

全日本王者の2022年は 世界の階段を上がる時 清水悠太 [プロテニスプレーヤー]

初戦の辛勝で波に乗る

プロ4年目の清水悠太(三菱電機)が2021年11月の全日本テニス選手権(全日本)のシングルスで初優勝を飾った。高校3年時には、グランドスラム大会に並ぶ最高峰グレードの世界スーパージュニアで初優勝を達成しているが「あの時よりも今回の優勝の方がうれしい」と話す。その理由を聞く前に、まずは全日本制覇の感想から聞くことにした。

Q 全日本初優勝の感想は?

率直にうれしかったです。もともと優勝したかった大会でもありましたし、2019年にはファイナルに残ったけれど優勝を逃し、なかなか頂点に立てず、今年こそはと思っていたので。しかも、普段拠点にしているビーンズドーム(ブルボン ビーンズドーム/兵庫県立三木総合防災公園屋内テニス場)で優勝できたのも、すごくうれしかったですね。

Q 全日本制覇を目標の一つに定めたのはいつからですか?

初めての全日本出場は高校2年時のワイルドカードです。その時はまだダメダメで…。この舞台で勝ちたいなとは思いましたけど、優勝を意識したのはもう少し先です。特にきっかけはないですけど、自分でもプロとして戦えるなっていうのが分かってきて、だんだん全日本優勝できるんじゃないかと思えるようになりました。

Q 今回の全日本では3回戦でジュニア時代の同期・羽澤慎治(慶應義塾大学)を破り、準決勝では前年度に敗れた山崎純平(日清紡ホールディングス)に勝利。決勝では約1ヶ月前に負けている今井慎太郎(イカイ)にリベンジを達成するなどドラマチックな試合が続きました。最も印象に残っている試合を教えてください。

今挙げていただいた試合も含めて全部の試合で色々と思うところはありました。でも、やっぱり初戦(2回戦)ですね。すごく緊張していて。相手は上杉海斗選手(江崎グリコ)。初戦で当たる可能性がある選手のリストを見た時、一番やりたくないと思っていた相手でした。また、上杉選手は1回戦で一度試合をしていて、僕はこの対戦が最初の試合。嫌だなぁと思って試合に入り、あまりいいプレーを出せなかった。それでもフルセットでなんとか勝てた。その後にコーチ陣と色々と話をして、このままだったら次は勝てないだろうから、練習してきたことを出したらいいという話になって…。そこからは自分らしいプレーを出せるようになってきました。いい形ではなかったですけど最初の試合に勝てたことが波に乗れた理由かなと思います。

Q 決勝戦の後、海外ツアーに参戦するため、すぐにフランスへ旅立ったそうですが、そこまでして今季の全日本にこだわった理由は何ですか?

まず優勝したかったからです。そしてもともと全日本という大会が好きで、毎年楽しみにしているからです。今年にかけていたみたいな感じではなく、いつもと変わらず、好きな大会で優勝したいという気持ちで挑みました。強いて言うなら、いつもは東京の有明で全日本は開催されますが、たぶん東京オリンピックの関係で今回はビーンズドームでした。ここで勝ちたかったというのは一つのモチベーションになっていたと思います。

Q 全日本のタイトルを取ったことで心境の変化はありますか?

特に変化はないです。でも、周りの反応は変わったというか…。準優勝だった時と今回の優勝とでは祝われ方が違いました。準優勝の時は「惜しかったね」「残念だったね」が多かったんですけど、優勝したら全員から「おめでとう」と言われる。そこはやっぱり大きく違うなと感じました。

Q 祝福メッセージも多かったですか。

そうですね。当日は200件くらい届きました。久しぶりの方や海外にいる方からもお祝いの言葉をいただいて。いろんな人に応援してもらってありがたいなと改めて感じました。

2022年はどんどん海外へ

Q 少し話は戻りますが、プロ転向1、2年目は順調にポイントを稼ぎ、グランドスラム(世界四大大会)予選も見えてきたと思います。その最中に、コロナ禍を迎えたのでしょうか?

その前に、ITFランキングで300位くらいになった時にルールが変わってしまうという不運がありました。それでも、もう一回ここから頑張ろうと思っていた矢先にコロナ禍になってしまいました。ここ2年くらい、なかなか思うようにできていないので、来年こそはという思いが強いですね。

Q コロナ禍の約2年はどのように過ごしてきたのでしょうか?

海外の大会も中止になって、半年くらいは世界中でテニスがストップした状態になりました。その中で、ラボのコーチたちがなんとかコートを押さえてくれて、場所を転々としながらも毎日練習はさせてもらえていました。それでも、普段は試合間隔が長くても2週間くらいしか開かない中で、ぽんと半年も試合がなくてテニスを始めてから試合が半年もなかったのは初めてでしたし、再開されてもなかなか勝てなかったですね。

Q 今回の全日本前にはケガで3ヶ月ほど試合から離れていたそうですね。
この全日本制覇は選手としてのターニングポイントになりそうですか。

ケガをしていた時、何ができるかを考えました。そして、プレーの幅を広げるために、今まであまり練習できていなかったボレーやスライスの練習に打ち込みました。自分のスタイルでは使う機会が少ないので、今までは練習してこなかったんですけどね。ボレーしか練習しない日もあったくらい、徹底的に練習しました。それを今回の全日本では出すことができたのでうれしかったです。ボレーがあると相手も読みにくくなると思いますし、何より勝負の決着が早いので体力の温存にもなります。そういう部分も優勝できた要因かなと思います。

Q 高校3年時に念願の世界スーパージュニア初優勝を飾りました。そして今回は全日本初制覇。ご自身の中では、どちらの方がうれしいですか?

どうだろうなぁ。どちらもうれしいですけど、全日本は日本で一番大きな大会ですし、しかも大人の試合ですし。やっぱり全日本優勝の方がうれしいですね。(優勝を決めた瞬間に)叫んでいましたから。あまり試合に勝って喜びを爆発させるタイプではないですし、周りからも「珍しいね」と言われたので、客観的に見ても全日本の方がうれしかったんだと思います。

Q 2022年は全日本王者として迎えます。どんな1年にしたいですか?

2021年はコロナの影響やケガもあって満足のいくシーズンではなかったので、2022年は海外の試合にどんどん出場し、目標であるグランドスラム予選にかかるくらいのITFランキングまで上げられるよう頑張りたいと思っています。


現在、清水悠太はフューチャーズと呼ばれるカテゴリーで戦っている。「それを抜け、次のチャレンジャーで優勝やベスト4に何回か絡めばITFランキングが200位くらいまで上がるはず。そうなればATPツアーやグランドスラム予選も見えてくる」と話す。どこまで世界の階段を上がれるだろうか。楽しみな1年になりそうだ。

清水悠太

三菱電機

しみず・ゆうた。1999年6月9日生まれ、湖南市出身。4歳からパブリックテニスイングランドで競技をはじめ、甲西中学時代には全国中学生大会で優勝。兵庫・西宮甲英高等学院に進学し、ITFジュニアサーキットを中心に活躍。高校3年時には全日本ジュニアや世界スーパージュニアのシングルスを制し、USオープンジュニアのダブルスで準優勝など輝かしい成績を残した。高校卒業後にプロの道へ。今年11月の全日本テニス選手権シングルスで初優勝を果たした。

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