2021.05.14
ミスターびわ湖と呼ばれし男。18回目の“びわ湖”も見事完走。 下村 悟[マラソン]
日本新が生まれたその裏で
マラソン日和となった2021年2月28日。最後の「びわ湖毎日マラソン(びわ湖)」は、25歳の鈴木健吾(富士通)が2時間4分56秒の日本新記録で優勝するという劇的なフィナーレとなった。42位までがランナーの一つの目標となるサブ10(2時間10分切り)を達成する高速レース。その中で下村悟(パナソニックホームズ)は18回目の〝びわ湖〞を完走した。
エリートレースのびわ湖には参加標準記録が設けられている。今年で言えば2時間30分以内。出場するだけでも難しい大会に、下村は18回もエントリーしてきた。
「怪我の影響で出場が危うい年もありました。それでも、しっかりスタートラインに立ち続けられたことは自分の誇りです」
近年は危なげなく参加標準記録を突破していた下村だが、今年はぞっとする経験もあったという。普段は行われない2回目の〝足切り〞が実施されたからだ。
「最後のびわ湖ということもあって、今年はエントリーが多かった。だから、人数調整のために2回目の足切りが行われました。そのタイムは2時間27分30秒。私は昨年の防府読売マラソンで25分台を出していたので大丈夫でしたが、もし30分以内ギリギリを狙っていたら、スタートラインに立てなかった可能性もありました」
当日のレースでは、18回目の完走に向けて危うい場面もあった。マラソンでは決められた時間内に関門を通過しないと失格になる。エリートレースのびわ湖は15㎞地点で52分、20㎞地点で1時間10分という関門閉鎖時間が設けられている。完走タイムに換算すると2時間26分という速いペース。この2つの関門には、過去にヒヤリとさせられた経験があると言う。
「2014年と15年はケガの影響もあって、この関門に引っかかりそうになりました。その後は問題なく通過してきましたが、最後のびわ湖もこの2つの関門は一つの難所だと考えていました。当日は自分のマラソン経験の中で、苦しい方のレースでした。乳酸も溜まり、厳しい展開を強いられました。その中で、この2つの関門をクリアし、しっかりとゴールへ帰ってきました。目標の30分以内も達成し、ほっとしたのを覚えています」
最後のびわ湖で下村が残した記録は2時間29分41秒(300位)。無事に完走したレース後、陸上競技を本格的に始めた高校時代の恩師から電話があったという。
「普段のびわ湖では電話はかかってくることはありませんでした。でも、テレビ中継で自分のことを紹介してもらったからかもしれませんが、恩師から電話がかかってきました。〝がんばったな〞と言われて、泣きそうになりました」
50歳までにびわ湖を20回完走するという目標は、大会が終了したことで果たすことはできなくなった。「やっぱり寂しい」と下村は話すが、その一方でこれをいい機会にしようとも考えている。
「今回を一つの区切りにして…。今までよりも挑戦する気持ちを強くしていきたいと思っています」。
46歳。〝ミスターびわ湖〞下村の競技人生はまだまだ終わらない。