2019.01.25

[柔道]ALSOK 遠藤宏美

2017年4月の全日本選抜柔道体重別選手権大会。48㎏級の遠藤宏美(ALSOK)は、競技人生の〝どん底〞を経験した。

「1回戦で強化選手ではない相手に敗れ、日本代表に絡めない位置まで落ちた。 引退のレールに乗っているなと本当に思いましたし、周りもそんな雰囲気でした」

4歳から柔道をはじめ、中学で全国制覇を果たした。 高校・大学でも常に国内トップクラスで、世界カデットや世界ジュニアでも優勝しワールドクラスになった。 だが、大学3年生の時に右肩を脱臼。 4年
生時には左前十字靭帯を損傷し、競技人生の歯車が狂い始めた。 結局、2年間ほど調子が戻らず、苦しい日々が続いた。

転機が訪れたのは、2016年のグランドスラム東京準々決勝。カザフスタンの選手にポイントを奪われ、劣勢に立たされた時だった。

「ケガから復帰はしていたけれど、ずっとフワフワした感じでした。 集中できていないというか、上の空というか…。 でも、グランドスラム東京の準々決勝で、追わないと負ける状況になって何かが噛み合いました。 畳にちゃんと足がついている感覚が戻ってきた感じで。 結局、試合には負けて、(敗者復活戦を勝ち上がって)次の3位決定戦も負けるんですけど、まだ選手を続けられそうだなと思えた」

だが、天は遠藤に好転ではなく、さらなる試練を与えることになる。冒頭で述べた2017年の全日本選抜の1回戦敗退である。

「今まで日本代表の補欠に入れてもらえていたのは、ケガの影響を大目に見てもらえていたからという部分もあったと思います。 でも選抜大会で1回戦負けして…さすがにケガが理由では済まなくなった。 私の人生は〝そういう人生〞だったんだなと思った。 でも、東京オリンピックまでまだ3年もある。いろんな方々と話をして、〝負けたら終わり〞という気持ちで割り切ってやろうと決めることができた。少し気持ちが楽になって、結果も残るようになった」

崖っぷち精神や背水の陣など、この精神状態についてはいろいろと表現がある。遠藤の場合は〝腹が据わる〞という言葉が最も当てはまるかもしれない。覚悟が決まった遠藤は、2018年3月のグランドスラム・エカテリンブルグ大会優勝をはじめ、8月のグランプリ・ブダベスト優勝、11月のグランドスラム大阪3位に入って、再びオリンピックを狙える位置(トップ4)まで浮上した。 今では東京オリンピックで自分が戦う姿を「イメージできている」 と話す。

そして2019年はこんな青写真(イメージ)を頭に浮かべている。

「2月のグランドスラムで優勝し、次の全日本選抜で買って、世界選手権で金メダルを取る」

〝負けたら終わり〞の遠藤にとって、これが東京オリンピックへとつながるレールである。


遠藤宏美
Profile/えんどう・ひろみ。1993年2月22日生まれ、大津市出身。比叡山中学・高校、筑波大学を経て2015年から綜合警備保障(ALSOK)へ。
4歳から柔道をはじめ、小学6年で全国3位、中学3年で全国優勝を経験。高校時代はインターハイや全日本ジュニア、世界カデット選手権などで頂点に。大学では世界ジュニア、アジア柔道選手権、ワールドマスターズなどで金メダルを獲得。
社会人としては2016年のグランプリ・ブダベストをはじめ、2017年・2018年にも優勝を経験。2018年にはグランドスラム大会で初優勝を飾るなど調子を上げている。



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