2022.08.06PHOTO&TEXT/KUNIHIKO SHIRAI
初の世界陸上で自己ベスト更新。 この経験を次の世陸、そしてパリへ。
“初”づくしの世界陸上
世界陸上 女子35km競歩(2022年7月22日)に出場した園田世玲奈(NTN)が、この大舞台で自身が持つ日本最高タイムを更新して9位に入った。ラスト200mでブラジルのV・リラに抜かれ、7秒差で惜しくも8位入賞を逃したものの、初開催の35km競歩、初の日本代表、初の海外レース、初の世界陸上という初めてづくしの中で大きな経験を得た。オレゴンでの熱戦から約1週間後、園田選手が滋賀に戻ってきたタイミングで話を聞くことができた。
Q初めての世界陸上でしたが、率直な感想をお聞かせください。
終われば、あっという間だったなという感想です。でも、それまでの準備や練習はしっかりやってきましたし、本番ではそれを出し切れたと思います。
Q新型コロナウイルスの影響で棄権する選手も相次ぎました。
日本選手団も続々と感染していたので、私も1日1日が必死でした。あ、今日も無事だったという感じで過ごしていました。スタートラインに立てないのは、応援してくださっているみなさんに対して最も申し訳ない形になってしまうので、自分なりに対策は徹底してきました。例えば、選手村での朝ご飯の時間をみんなとずらしたり、晩ご飯をめちゃくちゃ早い時間に食べたり、エレベーターを使わずに階段を利用したり。私の部屋は4階だったのですが、頑張って毎回上り下りしていました(笑)。自分の体は自分で守るというのを心がけて過ごしていました。
Qその苦労を乗り越えてスタートラインに立った時は、どんな気持ちだったのでしょうか?
「あぁ、本当にスタートできるんだぁ」ですね。うれしさでいっぱいでした。
「25年」に有終の美
Qレースプランはどういうものを立てていたのでしょうか。
日本国内のレースと同じように、自分の得意とする一定のペースを保って歩き、ラスト10kmで勝負に出られたらなと思っていました。でも、海外の選手たちにラスト15kmくらいで勝負をかけられてしまいました。それに合わせて自分も4分(1km)を切るくらいのペースに上げていたのですが、ラスト3kmの時点ではもう力を使い果たしていました。
Qレース中盤は4位グループを引っ張っていましたが、あれもプラン通りだったのでしょうか。
自分がグループを引っ張るというのは予想していなかったです。自分のペースで歩くことに集中していたら、結果的に4位グループを引っ張る形になっていました。
Qラスト200mで抜かれ、8位入賞を逃しました。あの時はどんな思いで歩いていたのですか。
沿道から声をかけていたので、後ろから(リラ選手が)どんどん迫ってきているのはわかっていました。でも、もう体が動かなくて。なんとか8位入賞に入りたくて抜き返そうとは思ったのですが、結局、抜き返せませんでした。最後の最後で経験不足の差が出たと思いますし、それも含めて力不足だったのかなと思います。
Q中京大学4年の頃に50kmで全日本女王に輝き、その後は比較的短い距離で経験を積まれたと思います。狙いは何だったのですか。
東京オリンピックに50kmが無く、35kmになるという話を聞いていました。なので、練習も試合も短い距離でスピードを鍛えようと考えていました。でも、実際にスピードを磨けたのはケガがきっかけです。ケガをしないようにフォームを見直していたら、スピードが付いてきました。
Q今回の世界陸上で初開催となった35kmには、20kmから上がってきたスピードのある選手、50kmから降りてきた持久力のある選手が混在していたと思います。どちらが有利だと思われましたか。
今回の世界陸上でいうと、20kmのスピードが35kmでもそのまま活かされた大会だったと思います。実際に20kmと35kmの表彰台の顔ぶれが全く同じでしたから。でも、50kmをやっていた選手は長距離に対する抵抗感はないのが強みになると思います。あとはスピードをどれだけ磨けるかが勝負になってくると思います。
Q世界陸上では2時間45分09の日本最高タイムで完歩。自己ベストを更新されました。
前半でガンガン攻めていて、最後の5kmでも一定ペースで歩ければもっと記録は出せたのですが、後半のペースダウンが目立ってしまいました。そこをもう少し改善していきたいですね。
Q来年も世界陸上が開催され、24年にはパリ五輪も控えています。
今回の世界陸上を経験できたことが大きな自信になったので、来年のブダペスト世界陸上は8位入賞を目標にして、パリ五輪はメダルを狙いたいです。そして25年には日本で世界陸上が開催されます。同じ25年には滋賀で国スポも開催されますので、なんとかそこまで一線で頑張って、有終の美が飾れたら最高だなと思っています。
Q世界陸上に出場して、最も得た経験は何でしょうか?
全てが新鮮で、得たものはいっぱいあります。海外の選手は20kmも35kmも両方レースに出ていたり、メダルへの執着心が強かったり。そういうものが自分には足りないなと感じました。いい刺激になりましたし、いい経験だと思います。次はもう“初めて”ではないので、しっかりと結果を残していきたいですね。
Q草津東高校から競歩を始められましたが、長距離ランナーから転向してよかったと思いますか?
はい、よかったです。(草津東高校の恩師)小澤(信一)先生には感謝です。もともと1500mや3000mの選手で、中学までは大津市で上位にいたんですけど、草津東高校に来たらみんな県のトップが当たり前みたいな選手ばっかりで。私は長距離も早くなかったですし、駅伝もメンバー外でした。そしてケガをきっかけに小澤先生に「競歩どうや〜」って迫られて(笑)。最初は競歩の独特のフォームが恥ずかしかったんですけど…、小澤先生のおかげですね。
2018年に大学4年生の園田選手を取材している。あれから4年間でトップアスリートの風格がぐっと増した印象だが、気さくで魅力的な人柄は以前と変わっていない。
現在、龍谷大学の長距離コーチを務めている小澤先生は園田選手をこう評す。「長距離ランナーとしては思うような結果が出なくて悩んでいたと思います。半ば強制的に競歩を勧めましたが、高校3年の時にインターハイ5000m競歩で9位になりました。努力家です。自慢の教え子ですね」。
今秋にはブダペスト世界陸上の日本代表選考レースが控えている。再び朗報が届くことを期待したい。
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園田世玲奈
NTN
Profile/そのだ・せれな。1996年9月10日生まれ、大津市出身。NTN(三重)所属。田上小学校、田上中学校、草津東高校、中京大学を経てNTNへ。中学から陸上競技をはじめ、競歩は高校2年の春から本格的に。高校3年時にはインターハイ5000m競歩で9位。大学では10000m、20㎞を中心に練習。2018年4月の全日本50㎞競歩で優勝(4時間31分52秒)。2022年4月の日本選手権35km競歩で優勝し、世界陸上の切符を手にした。