2021.01.06
[激動の2020] カヌーを漕げない苦しい日々 新岡浩陽
激動の2020
コロナ禍の1年を振り返る
東京オリンピックイヤーとして幕を開けた2020年。例年以上にスポーツへの注目が集まるはずだったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で大会の延期や中止が相次ぐ異様事態に。
日常生活すら困難な中、スポーツの真価が問われた激動の1年を振り返る。
努力しなければ成長はない
2020年3月24日。東京オリンピックの1年延期が正式に発表された。多くの選手が動揺を隠しきれない中、カヌースプリントの新岡浩陽(滋賀レイクスターズ)は全く動じなかった。
「東京オリンピックの延期に対して特に私の中で反応はなかった。代表選考を兼ねた3月のアジア選手権が4月に延期される話が出た時点で、内心では新型コロナウイルスが1ヶ月で収束するとは思えなかった。代表選考ができないのにオリンピックの開催はない。早い段階で照準を切り替えていました」
だが、練習に制限がかかったことで、晴れない気持ちもあった。
「時間さえあれば水上に出るくらい私はカヌーが好きです。なのに、約1ヶ月半も乗艇練習を自粛させられました。カヌーも漕げない、ジムも開いていない。できるのは、ランニング能力の向上と身体能力を高めるくらい。フラストレーションがたまらなかったと言えば、ウソになります」
苦しい中でも新岡は向上心を持ち続けた。K-1(カヤックシングル)1000mのパフォーマンスに近い1500mのランニングメニューをこなし、基礎トレーニングを積み重ね、ブリッジや倒立、体操など柔軟性も同時に高められる運動を積極的に取り入れた。その結果、有酸素能力と身体能力がアップし、1500mのランタイムを10秒縮められた。
カヌーから離れ「漕ぐパフォーマンスは低下した」そうだが、20日ほどで完全にテクニックが戻ると以前よりも好調だったという。
「ランニングで有酸素能力が上がり、以前よりハイペースで漕ぎ続けられるようになった。身体能力が高まったことで理想のテクニックを表現できるようにもなった」
そして今シーズンの初レースとなった日本選手権では、現状でのベストパフォーマンスを発揮して優勝。「来年3月のアジア選手権でペアを組む選手と組んだレース。優勝が絶対条件だった中で結果を残せ、素直に嬉しかった」そうだ。
競技人生で最も浮き沈みのあった激動の2020年。新岡は「私だけではなく全てのアスリートのメンタルが試された1年だったと思う」と振り返る。
「私自身、17年間の競技生活の中でこれほどカヌーを漕げなかった経験はないですし、苦しい1年でした。でも、『努力は無限にできる』『努力をしなければ成長しない』という基本を改めて感じることもできました。もし、自粛期間中に落ち込んで何もしていなかったら、今の自分はなかったと思う」
新岡の次のレースは、来年3月のアジア選手権。東京オリンピック出場権を獲得するための、勝負のレースである。
「たくさんの人からの応援を加速に変えて、東京オリンピックの舞台に挑みたい」
コロナ禍を乗り越えた先に、大きな花を咲かせるつもりだ。
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新岡浩陽
滋賀レイクスターズ
香川県出身。坂出高校から立命館大学を経て滋賀レイクスターズへ。2019年世界選手権日本代表。