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2021.04.02

元NBAアスレチックトレーナーが考えるこれからのスポーツのカタチ。そして子どもたちがやるべきこと。 中山佑介

SPECIAL INTERVIEW

「元NBAアスレチックトレーナーが考えるこれからのスポーツのカタチ。そして子どもたちがやるべきこと。」

アスレチックトレーナー 中山佑介(TMG athletics代表・滋賀レイクスターズ パフォーマンススーパーバイザー)

動作習得の引き出しが多い

 アスレチックトレーナーとして、アメリカのプロバスケットボールリーグNBAで活躍した中山佑介さん。クリーブラド・キャバリアーズ時代には4年連続でNBAファイナル進出に貢献し、16年には優勝を支えた。2019年3月から草津市にパーソナルトレーニング施設「TMG athletics」を構え、トップアスリートから健康志向のシニア世代まで幅広く面倒を見ている。

 そんな経歴の中で、中山さんが日頃から感じてきたことがあるという。アメリカと日本では子どもたちのスポーツへの関わり方が異なる点だ。日本では早い段階で一つのスポーツに特化する傾向(スポーツの早期専門化)が強いが、アメリカの子どもたちは複数のスポーツを経験するという。 過去に120人以上のNBA選手と向き合ってきた中山さんは「子どもの頃にバスケットボールだけをしてきたNBA選手はいないんじゃないかなぁ」と話す。まずは、そのあたりの背景からうかがった。

 

Q NBA選手が子どもの頃に複数のスポーツを経験しているというお話ですが、その経験がNBA選手につながっているということでしょうか?

 考え方にもよりますが、アメリカにはトライアウト文化がありますので、まず高校のチームでプレーしたければトライアウトをくぐり抜けないといけない。そういう狭き門をいくつもくぐり抜けた先にNBAがあるので、NBA選手は生まれ持ってのギフト(能力)があると思います。

つまり、運動能力の高い選手だから複数のスポーツをすることができたという見方もできますので、子どもの頃に複数のスポーツをしていたからNBA選手になれたと簡単に紐付けてはいけません。とはいえ、複数スポーツをしてきた経験とNBA選手になれたことに対して、私は何かしらの相関があると考えています。

 

Q 複数スポーツの経験が、バスケットをやる上でメリットになったという意味でしょうか?

 可能性はあると思います。私が日本で関わったバスケット選手の話ですが、例えば、彼らに全く新しいエクササイズを導入すると、バスケット以外のスポーツをやってきた選手は動きの習得が早いです。

子どもの頃にスキーをやっていたある選手は「その動きはスキーの重心移動に似ています」と言いました。サンプルが少ないので確証はありませんが、今までの経験で言うと、複数のスポーツをしてきた選手の方が新しい動きを習得する際に〝引き出し〞が多いように思います。

 

大人の動きを叩き込むリスク

 

Q 引き出しの多さ以外に、子どもの頃に色んな運動をしておくことで、どんなメリットがありますか?

 まず、自分が好きだと思えるスポーツに出会える確率が増えることが挙げられます。夢中になった子どものパワーって恐るべきものがありますし、夢中になれるものに出会えることは人生を豊かにしてくれます。何かしらの理由で夢中になったスポーツをやめなくてはいけなくなった時も、別の選択肢に進みやすいと思います。

 ケガの予防につながる点もメリットです。思春期前に一つのスポーツに特化したアスリートは、複数スポーツをやってきたアスリートよりもケガが1.5〜1.6倍も多いと報告されています。一つの競技を専門的に行うと、似たような負荷を体に与え続けることになります。成長過程の体でそれを続けると、オーバーユースになることがあります。

 運動の動作に関する脳の発達は、7歳から10歳にピークを迎えます。間違った捉え方をすると、この時期に一つのスポーツに絞り込み、徹底的に教え込むことでスキルが爆発的に向上すると考えかねない。でも、私の考えでは使わない脳神経衰退してしまうので、この発達期に動きのバリエーションを増やさないと、あとから新しい動作を獲得することは難しくなります。

 

Q なるほど。でも、7歳から10歳の時に競技特有のスキルをたくさんマスターさせたいという指導者も多いと思います。それは間違っているということでしょうか?

 あくまで私の考えですが、スポーツに限らず、動きにはある程度の全身の筋肉とその動作を行うために必要な筋力が必要だと思っています。まだ筋力が追いついていない子どもの頃にはできない動きもあると思います。それにも関わらず、大人と同じプレーを叩き込むのは効率が良いとは思えません。オーバーユースのリスクもありますし、考え方によってはパフォーマンスに弊害があるとも思います。子どもと大人のプロポーションを比較すると、頭と体のバランスが異なります。

つまり、同じプレーでも子どもと大人では動作が異なってくるということです。バスケットのジャンプシュートでは、筋力の少ない子どもに求められる動きのコントロールと大人では異なってきます。子どもの頃に大人の動きをモデルとした動作を叩き込み過ぎてしまうと、成長した後に強くなった身体を染みついた動作に合わせるような不自然な形になってしまう可能性があると思っています。

陸上競技の為末大さんは、「早すぎる最適化問題」として、子どもに大人のフォームを当てはめて指導し過ぎると、成長した時に動きは同じでも内部で発生している力が異なるために結果としてスピードが出なくなってしまう、という話をされていました。

ピラミッド型ではない未来

 

Q 中山さんのコラムに、LTAD(LongTeam Athlete Development/長期的なアスリート育成)に関わる記事を発見しました。日本ではアスリートの育成をピラミッド型で表現することが多いですが、LTADでは四角になっていました。詳しくは中山さんのコラムを拝読していただくとして、この図では子どもたちの将来がトップアスリートだけではなく、全ての人が人生を通して活動的であること(Active for Life)につながっている点が気になりました。日本スポーツの未来も、LTADの考えに大きなヒントがあるように思います。

 LTADの四角い図は、競技者として振るい落とされるのではなく、別の道でずっとスポーツと関わり続けていくことを示しています。先ほど、子どもの頃に複数のスポーツを経験しておくと、熱中していたスポーツができなくなった時に転向しやすいという話をしましたが、結果的にスポーツ離れが抑えられ、Active for Lifeにもつながっていきます。これからの日本のスポーツのカタチとして、非常に参考になると考えます。

 

Q とはいえ、日本では大人が複数のスポーツを楽しめる環境はまだまだ整備されていない気がします。大人が複数のスポーツを楽しむことができれば、子どもたちも自然と色々な運動に取り組むのかなとも思います。中山さんは、大人がどのように子どもに関わるのが良いと考えていますか?

 日本では、子どもが触れるスポーツはどうしても両親や兄弟の影響が大きいと思います。私の息子がバスケットをやっているのも、私が仕事でレイクスやバスケットに関わる機会が多いからだと思います。でも、残念ながら保護者が複数のスポーツを楽しめる環境は少ない。仮に環境が整っていても、部活文化で育ってきた大人が急に違うスポーツを始めるのは少なからず抵抗があると思います。

でも、スポーツ中継を観るとか、実際にアリーナやスタジアムに足を運ぶとか、スクールの体験に参加するとかなら、自分が専門にやってきたスポーツ以外でも子どもと一緒に触れられると思います。そうやって複数のスポーツに触れた子どもたちが大人になったら、環境も変わっていくと思います。

中山佑介

TMG athletics

Profile/なかやま・ゆうすけ。1983年3月23日生まれ、静岡県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒。2005年にアメリカへ渡り、米国公認のアスレチックトレーナーの資格や博士号を取得。ストレングス・コンディショニングスペシャリストの 資格も有し、幅広く活躍した。NBAのニューヨーク・ニックスやデトロイト・ピストンズでインターンを経験したのち、2013~2018シーズンにクリーブランド・キャバリアーズにアシスタントアスレチックトレーナー兼パフォーマンス・サイエンティスト/スペシャリストとして活動。4年連続のファイナル進出、うち1回は優勝(16年)に貢献。18年に帰国し、19年3月にパーソナルトレーニング施設「TMG athletics」を滋賀県草津市に設立。

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