2021.03.05
ありがとう。 びわ湖毎日マラソン
もうすぐ来るわ、そろそろ行こか。 テレビに映るいつもの景色を見ながら、冬の匂いと春の香りが混ざり合った沿道へと出かける。大津っ子たちにとって「びわ湖毎日マラソン」(びわ湖)はそんな身近なレースだった。2021年2月28日(日)。数々のオリンピック選手を輩出した伝統ある大会が最後の時を迎える。なぜ終わるのかといった下世話な詮索は置いといて、今回は〝びわ湖〞への感謝を表すことにした。ありがとう、そして永遠に。
運営に関わって45年以上。〝びわ湖〞は滋賀の誇り長年支えてきたことは誇り
2021年1月某日。「びわ湖毎日マラソン」の発着地である皇子山陸上競技場へ足を運んだ。滋賀陸上競技協会の坂一郎専務理事に会うためである。特集の軸を、出場選手ではなく、長らく大会を支えてきた方々にしたかったからである。坂さんは1975年の第30回大会から裏方として“びわ湖〞に関わってこられた。実に45年以上。滋賀県出身で、順天堂大学では長距離ランナーとして活躍したこともあって〝びわ湖〞には並々ならぬ愛着があるという。
「多くの選手が〝びわ湖〞からオリンピックや世界選手権に羽ばたいている。そういう大会に関わることは関係者冥利につきますし、それを長年支えてきたというのはやっぱり滋賀陸協の誇りです」S字カーブは蛇行せずに運営側として長年苦労してきたのが「道路のセンターラインを無視して走らせること」だと坂さんは苦笑いを浮かべる。
「“びわ湖のコースはS字カーブが多いのですが、距離を測る時はセンターラインを無視して直線で計測します。でも、選手たちは無意識のうちにセンターラインに沿って走ってしまう。すると走る距離が長くなってしまう。蛇行せず、直線的に走ってもらうために何年も、何度も説明する必要がありました」
全てのセンターラインに沿って走ると「およそ1分半から2分くらいの誤差が出る可能性がある」と坂さんは話す。ちなみに〝びわ湖〞での日本人最高は2001年の第56回大会で油谷繁(中国電力)がマークした2時間07分52秒。現在の日本記録は大迫傑(Nike)の2時間05分29秒。その差は2分少々。
「〝びわ湖〞で日本記録が出てもおかしくはない」と、坂さんは少し頬をゆるめた。忘れられない2012年「選べないですよ」と言う坂さんに無理を言って、印象に残っている大会を1つだけ挙げてもらった。思案した後、「ロンドン五輪の選考会だった2012年の67回大会ですかね」と絞り出してくれた。
「滋賀の守山で練習してきた山本亮選手(京都・佐川急便)が、皇子山陸上競技場のトラックで中本健太郎選手(安川電機)に競り勝った。あのデッドヒートは忘れられませんし、昨日のことのように思い出すことができます」
そう言って、坂さんは振り返った。そこには歴戦の足音が聞こえてきそうな皇子山陸上競技場があり、最後の〝びわ湖〞を静かに待っているように見えた。
「最後が無観客開催というのは残念ですが、しっかり最後の大会も成功させたいと思います」