2019.05.17

楽しみながら食べ、 パフォーマンスを向上させる

指導者として、ボランティアとして、親として…。
スポーツは選手だけではなく、支える人たちの助けがあって初めて成立するもの。
連載[SOS]では、そんな縁の下の力持ちにスポットを当てていきます。

ゴマで足がつらなくなった?

本誌 「スポーツ栄養学 武田哲子のFA(フードアドバイス)宣言!」(26ページ)でおなじみの武田先生(びわこ成蹊スポーツ大学准教授)は、もともとトレーナーを目指していたと言う。

 「中学・高校ではテニスをやっていましたが、昔からスポーツを観るのも好きでした。 ある日、Jリーグの試合を観ていたら、ピッチの脇で選手にテーピングを巻いている人がいることに気がつきました。それがトレーナーだったんですが、スポーツの現場で働きたいと思っていた私にとってはすごく魅力的に見えました。 だから、大学時代はトレーナーを目指していました」

 名門・早稲田大学サッカー部の学生トレーナーになった武田先生は、選手のケア、練習メニューの提案、トレーニングのアドバイスなど何でも行ったという。 その中で、スポーツ栄養学に興味を持つきっかけがあった。

 「試合中に足がつってしまう部員がいました。何とかならないかと相談を受け、ゴマが効くというのを本かテレビかで仕入れていて、その選手に勧めました。 しばらくして、その部員から”ゴマのおかげで足がつらなくなった”と感謝されました。 今思えば、ゴマが効いたのかうかは定かではありません(笑)。でも、その時に私は”食べるもので選手が変わること”に興味を持ちました」

 今や日本セーリング連盟管理栄養士や滋賀レイクスターズの栄養アドバイスなど幅広く活躍している武田先生。その原点が、半信半疑のゴマ・アドバイスだったというからおもしろい。

海外でのコンディショニング

 武田先生のライフワークとも言える研究テーマは 「海外でのコンディショニング」 である。 国際大会に出場する選手たちを試合までの限られた時間の中でいち早く正常なコンディションに戻すための研究と言い換えてもいい。

 選手たちは試合をする以前に、外国の気候風土、時差ボケ、食事の違いなどさまざまな環境変化と戦わなくてはいけない。 逆に、できるだけ早く現地に体が馴染めれば、それだけ準備期間も確保できるため試合を戦う上で有利にもなるのだと武田先生は話す。

 「研究の核になるのは、海外での腸内環境の正常化です。 移動時間の長い海外遠征では、国内以上に食事をする時間が不安定になりやすい。 体の順応が遅れれば、時差の関係でランチを食べていても体の中では夜食を食べている状態になっている場合もあります。 だいたい何日くらいで腸内環境が国内にいた時と同じ状態に戻るのか、何を摂取すれば正常化を促せるのか。 選手に協力してもらって、データを収集しているところです」

 採便し、サンプルを日本に持ち帰って専門の大学で細菌の種類や数、栄養素などを調べて、その推移をデータ化し分析していく。 今は何年にもわたってデータ収集を行っている段階だが、これが何年か後には国際大会に挑むアスリートたちのコンディショニングにきっと役立つ日がくる。 壮大だが、地味でもある武田先生の研究はこれからも続いていく。

”試してみる”が大切になる

 毎日・毎食、アスリートの食事を武田先生が自ら作るわけにはいかない。 だから、基本はアドバイスを参考に選手や家族が食生活を管理していくことになる。 その際、大切なのは 「試してみること」 だと武田先生は話す。

  「毎日のことなので、どうしても食べやすいとか作りやすいものになりがちですが、今日はこれを作ってみようとか、食べてみようと常に試してみることをお勧めします。 そして、大事なのは翌日に自分の体調に変化があるかどうかを考えてみること。 それを繰り返していくうちに、その時々で自分のパフォーマンスを支えてくれる栄養素が何かが感覚としてわかってくると思います。でも、栄養素だけを求めるならサプリメントを摂取すればいいですが、私はできるだけ食事で自分の体を支えることを勧めています。 というのも、選手のコンディションを整える要素には心のリラックスや幸福感を味わうといったものが含まれるからです。食事を楽しみ、食事でパフォーマンスを支えてもらうくらいのスタンスでやってほしいです」

 スポーツ栄養学と聞くと、なんとなく敷居が高い印象を受ける。 だが、美味しいものを求めることが主なら、楽しく体作りを続けられる人も多いのではないだろうか。 ぜひとも自分を支える栄養素たちに出会ってほしい。

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