2025.12.16

世界を知った〝跳ぶメガネ〞。28年ロス五輪の先を見据える

 この日、国立競技場には5万を超す観衆が詰めかけていた。今年8月の世界陸上に出場した走高跳の瀬古優斗(滋賀県スポーツ協会/FAAS)は「いや〜浮かれましたね」とメガネを光らせた。

「男子100m目当ての方が多かったと思うんですけど、予選は5万、決勝は4万の観衆でしょ、そりゃ浮かれますよね。日本開催というのもあって、日本人選手への応援もすごかったですし。生まれて初めて経験する雰囲気でした」

 予選を通過した瀬古は、世界陸上初出場でファイナリストになった。最終結果は10位。側から見れば世界トップ選手の仲間入りを果たしたように見えた。

 だが、瀬古本人には〝ある違和感〞があったという。

「予選と決勝のギャップが大きかったんです。言葉にするのは難しいですけど、決勝は予選とは違ってピリッと張り詰めた空気が漂っていました。誤解を恐れずに言うと、予選はお遊びというか…。決勝と予選では選手たちの集中がまるで別次元でした」

 世界陸上の常連選手にとって、予選はあくまで決勝に残るための通過点に過ぎない。リラックスして笑顔も見せていた。背伸びして決勝に残った瀬古とは違った。

「強い選手は予選を適当に跳んでも決勝には残れる。それくらいの余裕がないと世界では戦えないことを痛感させられました。予選突破で浮かれていた自分が恥ずかしいくらい、差を見せつけられた」

 とはいえ、世界陸上のファイナリストにならなければ、世界との差に気づくこともなかっただろう。そういう意味では、瀬古が世界の扉を開けた瞬間だった。

ロス五輪後の世界陸上でメダル

 世界を肌で知った瀬古は、世界と勝負できる位置をめざしている。

「来年はアジア大会がありますが、大きな世界大会は特にありません。一つあるとすれば、9月にハンガリーのブダペストで開催される第1回世界陸上アルティメット選手権です。でも、この大会に出られるのはワールドランキング上位 8位まで。今、自分はワールドランキング20番台なので、雲の上の大会です。なので、少しでもランキングを上げることが来年の目標になります」

 28年にはロサンゼルスオリンピックも控えている。

「もちろん、ロス五輪出場はめざしています。まだ成長できる余地も感じていますし、不可能ではないと思っています。ただ、最終目標はロス五輪の翌年に開催される世界陸上でメダルを取ること。オリンピックで燃え尽きるのではなく、さらに上をめざしたい」

 今年は〝メガネジャンパー〞というキャラが先行した感がある。「注目していただいてありがたいのですが…」と言いながら、瀬古はメガネをマットの上に置いた。次は競技力で話題を集めたいと言わんばかりに。オリンピック出場のその先に〝メダル獲得〞を見据えるのは、アスリートのプライドの表れかもしれない。

瀬古 優斗

滋賀県スポーツ協会/FAAS

せこ・ゆうと。大津市出身。草津東高校、中京大学、滋賀レイクスターズを経て、滋賀県スポーツ協会/FAASへ。2025年は第73回兵庫リレーカーニバル優勝や世界陸上初出場など飛躍の1年に。自己ベスト2m33は日本歴代2位タイの記録。

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