2025.06.17
非連続に成長する要素は〝箱〞以外に考えられない
Jリーグ、Bリーグ、SVリーグの発展に尽力されてきた大河正明氏。「夢のアリーナ」整備にも力を注がれてきた大河氏に、まずは一般社団法人SVリーグ代表理事チェアマンとして初年度を終えたSVリーグの感想を聞いた。
SVリーグ1年目に際して、目標に置いていたのはリーグの事業規模(売上)と入場者数という2つを成長させることです。
入場者数について、男子はバスケットボールのBリーグ初年度を上回る1試合平均3100人以上を達成し、半分くらいが満員試合でした。アリーナのキャパがもう少し大きければ、もっと動員数は伸びていたのかなとも思いますし、合格点だったと思います。
女子はポテンシャルを考えるとまだまだ成長の余地があるかなと思います。女子は平均1300人くらいで、バスケのWリーグ(女子)と変わらなかった。シーズン後半になって尻上がりに入場者数が伸びたことは明るい材料ですが…。東レアローズ滋賀も平均2000人ほどのお客様が入りました。2024年7月に新たに運営会社が設立され、お客さんを呼ぼうというマインドに変わったことが大きいと思っています。
〈Q〉バレーボールのプロ化がもたらす影響はなんでしょうか?
一つは選手がプロリーグになって変わったと思います。「ファンに満足してもらおう」という振る舞いになりましたし、お客さんが増えたことで選手たちもやりがいを感じていると思います。会場の3割しか席が埋まっていなくて、ほとんどが会社の方では選手もポテンシャルを充分に発揮できないですし、プレーの質も向上したのかなと思います。
〈Q〉リーグのプロ化で選手やチームが成長。その流れの中でアリーナの価値も変化していますか?
スポーツが産業として発展する上で、どんな箱(アリーナ)でやっているかというのは避けては通れないものだと思います。昨年、Jリーグのサンフレッチェ広島に新しいスタジアムができましたが、それまでは30〜40億円の売上だったものが80億円にまで伸びました。バスケの千葉ジェッツも新アリーナができて今シーズンは50億円くらいの売上になるではないかと言われています。これだけ非連続に成長する要素はスタジアムやアリーナといった〝箱〞以外には考えられない。
この春に神戸にキャパ1万人規模のアリーナ(ジーライオンアリーナ神戸)ができ、3年後くらいには京都にも大型アリーナができる。東京はもちろん、神戸や京都といった都市にアリーナができると他府県からより多くの方が足を運ぶと思います。そうなるとスポーツはこういう異空間で観るものだという風潮が広がる可能性がある。その時に滋賀のアリーナはどうかという問いが出てくると思います。
選手たちの目線でもやはり良いアリーナや環境でやりたいと思うでしょうし、選手のスカウティング面も含めてアリーナは大事になるかもしれません。
〈Q〉大河さんはBリーグ発足の頃から「夢のアリーナ」整備をリーグ発展のキーワードに挙げられています。今の滋賀をどう見ていらっしゃいますか?
まず、日本がヨーロッパと比べて遅れているのが箱だと思っています。日本は体育館のイメージが強く、〝観る〞人のものではなく、〝する〞人のものになっていると思います。でも、それがエンターテイメント性の高いBリーグやSVリーグを通して少しずつ変わってきているのかなと思います。
滋賀では、滋賀レイクスが年間30試合をホームで行い、1試合平均4000人以上という数字を残しています。東レアローズ滋賀も年間20試合がホームゲームで、1試合平均2000人くらいです。滋賀県内でこれほどの規模を誇る興行はほかにないと思います。他のイベントも含めてアリーナ近辺に年間のべ20万人の方が来るわけですから、街を活性化させる装置としてアリーナを考える必要があると思います。
また、バスケとバレーのプロクラブがある地域は恵まれていると思います。うまく日程を調整すれば同じアリーナで年間50試合を行えると思います。それを軸に、音楽イベントや滋賀の物産展などにも活用できる。東京ドームでは4〜5日ほど「蘭展」を開催しているくらいですから、色々と活用方法はあると思います。
また、アリーナは防災拠点としても優れています。沖縄のアリーナを造る時に、当時は議員からスイートルームは不要と言われていたみたいです。でも、行政に対して避難場所は妊婦さんもいれば、ご病気の方もいるかもしれない、そういう方々を固い床で雑魚寝させるわけにもいかないですし、個室が必要だと説得したそうです。シャワーもトイレも完備していますし、アリーナは防災拠点としても優秀だと思います。
ただし、辺鄙な場所に造るのはあまりオススメできません。利便性が悪く、孤立してしまっては避難場所にならないからです。そういう意味でも、滋賀にも人が集まりやすい場所に箱を作ることが大切かなと思います。
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大河正明
一般社団法人SVリーグ
《現職》一般社団法人SVリーグ代表理事チェアマン、一般社団法人ジャパンバレーボールリーグ代表理事CEO、びわこ成蹊スポーツ大学 特別招聘教授 兼運営アドバイザー、学校法人ヴィアトール学園洛星中学校洛星高等学校 常務理事、経済産業省・スポーツ庁 スポーツ未来開拓会議委員、公益社団法人経済同友会スポーツとアートによる社会の再生委員会、公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ副委員長名誉会員。 《経歴》1981年3月 京都大学法学部を卒業。1981年4月に株式会社三菱銀行(現 三菱UFJ銀行)へ入行し、1995年~1997年にJリーグへ出向する。2010年11月に銀行退社し、社団法人(現公益社団法人)日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)に入局する。日本初のクラブライセンスマネージャー、常務理事を歴任。2015年4月から一般社団法人(現公益社団法人)ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(B.LEAGUE)理事に就任し、2015年5月に公益財団法人日本バスケットボール協会(JBA)専務理事 兼 事務総長に就任。2015年9月には公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ理事長チェアマンに。2020年7月にはびわこ成蹊スポーツ大学 副学長 兼 大阪成蹊大学スポーツイノベーション研究所 所長に就任。2021年10月からびわこ成蹊スポーツ大学 学長 兼 大阪成蹊学園 理事。2022年9月に一般社団法人日本バレーボールリーグ機構 理事副会長に就任し、2024年7月から一般社団法人SVリーグ 代表理事チェアマン 兼 一般社団法人ジャパンバレーボールリーグ代表理事CEOへ。