2024.09.01

最後の全日本インカレ。一緒にFINALへ。

コロナ禍のもどかしい日々

 中学生の頃、今西愛依(立命館大学)は2人乗りで全国制覇を果たした。ペアを組んだのは一緒にオーパルオプテックスカヌーチームで練習してきた遠藤帆夏(滋賀大学)である。2人は比叡山高校でもペアを組み、1年生でインターハイ3位と将来を嘱望される存在だった。

 だが、高校3年の時にコロナ禍で大会がすべて中止になると、2人の距離がなんとなく離れてしまう。今西は振り返る。

「試合が一切なくなった状況で、お互いが大学の話を少し避けているような雰囲気がありました。私は2人で同じ大学に行って今までと変わらずにペア種目も頑張ろうと思いながらも、なんとなく聞き出せずにいました」

 人との接触が困難な社会背景も原因だったが、一番の理由は遠藤が教員を志し滋賀大学をめざしているという噂を聞いたからだ。距離を置いたまま、もどかしい時間だけが過ぎていった。

〝オーパル〞でカヌーを続けたい

 一方、高校3年の遠藤は「私が大学をどうするか(今西)愛依が気にしているだろうな」と感じていたという。

「もちろん、今までみたいにペアを組んでやりたい気持ちもありました。でも、愛依に話してしまうと気持ちが左右されるというか…、自分の人生なので2人で決めることではないと思っていました。滋賀大学教育学部をめざした理由はオーパルで競技を続けたかったからです。カヌー部がある大学に進むとやっぱり勧誘されるので、カヌー部がなくてオーパルに通える距離が大学選びの条件でした。また、将来的には教師になってカヌーを教えたいという思いもあったので私にとっては滋賀大学がベストでした」

 今西が接触を避けられていると感じていた背景には、そういう事情があった。

離れていても常に意識してきた

 カヌーの強豪・立命館大学へ進学した今西は1回生の全日本インカレのシングル500mと200mで3位になった。だが、この大会で4回生が引退すると、カヌー部の女子は今西一人になった。ここから2年間は孤独な競技人生を歩むことになる。

「周りに女子がいないので、どれくらい自分を追い込んで練習すれば良いかがつかみにくかった。いくら練習をしても、他大学の選手はもっと練習しているかもしれないと思ってしまう。モチベーションを保つのが難しかったです」

 その期間、今西を支えていた目標があるという。「もう帆夏には負けないぞ」だ。

「高校まではシングルで帆夏に勝てなかった。もう負けたくないと思うと大学での苦しい時期も頑張れました」

 そして大学では今西が遠藤の先をいくことになっていった。

 もちろん、遠藤も今西を意識して競技を続けていた。

「中学や高校では私の方が勝っている率は高かったと思います。でも、高校3年くらいから愛依の方が速くなってきて、大学生になってからはやっぱり負けたくない気持ちでやっていました。でも、競技レベルでは愛依の方がすごくなりましたし、負けたくないというよりは切磋琢磨して一緒に速くなりたいという思いで練習していました。戦友じゃないですけど、愛依が頑張っているから私も頑張ろうというモチベーションでした」

一緒にファイナルで漕ぎたい

 月に1度は2人で食事に行くそうだが、カヌー競技の専門的な話は一切しないという。溝ができたわけではないが、コロナ禍で生まれたボタンの掛け違いはなんとなく元に戻っていないのかもしれない。そんな2人の学生最後の舞台が9月の全日本インカレである。

 今西は「優勝したい気持ちはあります。でも、一番は帆夏と一緒に決勝レースを漕ぎたいです」と願っている。

 遠藤は「今度のインカレで選手を引退します。今年の春頃からスランプというか、全く漕げなくなっているので出場できるかどうかも怪しいですが…」と暗い表情をみせた。だが、今西の想いを伝えると遠藤は「一緒に決勝かぁ、それ、いいですね」と空を見上げた。

 2人の物語がハッピーエンドになることを心から願う。

左:今西愛依  右:遠藤帆夏

立命館大学      滋賀大学

左:いまにし・めい。2002年生まれ、大津市出身。比叡山高校卒。小学2年にオーパルオプテックスカヌーチームで競技を始め、2017年のJOCジュニアオリンピックカップ全国中学生カヌー大会で遠藤帆夏と2人乗り(WK2)で全国制覇。大学進学後も全国トップクラスを維持し、24年5月の「第14回全日本学生カヌー長距離選手権大会」(WK1)で優勝。                                        右:えんどう・ほなつ。2002年生まれ、大津市出身。比叡山高校卒。小学2年からオーパルオプテックスカヌーチームに所属。2017年のJOCジュニアオリンピックカップ全国中学生カヌー大会で今西愛依と共に2人乗りで優勝。ジュニア日本代表として「オリンピックホープスレガッタ」にも出場。大学進学後もオーパルオプテックスカヌーチームで活動。

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