2022.07.02
まるで"漫画"の主人公 今夏のシナリオは日本一 File.01[ 高校野球] 近江高校 硬式野球部 山田陽翔
エースで四番の頼れるキャプテン
今春のセンバツで滋賀県勢初の準優勝に輝いた近江高校硬式野球部。その礎を築いてきた名将・多賀章仁監督は、にこやかな表情で「まるで漫画みたいでしょ」と話した。甲子園を沸かせた山田陽翔(3年)のことである。
「エースで四番打者。投球と打撃の二刀流を両立しているだけでもすごいのに、彼はキャプテンも務め、誰よりも練習をする。手の平を見ましたか。監督を長くさせてもらっていますが、あんなマメを作っている選手を見たことがない。あれが山田陽翔という人間の全てを物語っていると思います」
近江で日本一になる。その決意で〝近江ブルー〞のまばゆいユニホームをまとった1年生は、高校2年の夏に甲子園ベスト4進出の原動力となり、今春のセンバツでは投打で活躍しチームを準優勝へと導いた。着実に歩みを進める高校野球界のスターは〝高校最後の夏〞を前に何を思うのだろうか。
[Q]近江高校を選んだ理由は滋賀県の高校で日本一になりたいからだとうかがいましたが、そこにはどんな思いがあったのでしょうか?
(他府県からもオファーは届いていたが)やはり地元の愛されるチームで日本一になってやろうという気持ちが強かったです。もう一つの理由は、プロ野球選手になるという目標を叶える上で、近江高校がいいのではないかと考えました。近江高校はピッチャーのプロ輩出率が高かったからです。
[Q]近江高校での初登板は覚えていますか?20夏の代替大会2回戦。前年の滋賀県大会決勝で対戦した光泉高校(現光泉カトリック)との一戦でした。
はっきり覚えています。先輩のアクシデントで6回に急遽登板になりましたが、特に緊張もなく投げられました。今までの練習通りに投げればいいと思っていたからでしょう。逆に急遽の出番だったからよかったのかもしれませんけれど…(笑)。身構えていくよりも、〝おい、行ってこい!〞って送り出されたのがよかったと思います。
[Q]コロナ禍は想定外だったと思いますが、どう受け止めていたのですか?
仕方がないのはわかりますが、やりきれない気持ちでした。個人としては高校1年の夏から甲子園で投げるつもりだったので、大会が中止になってスタートラインにも立つチャンスがないもどかしさはありました。でも、僕以上に高校3年生の先輩は悔しい思いだったと思います。
[Q]その不遇を経て高校2年の夏の甲子園でブレイク。全5試合で先発を飾り、計30回を投げて31奪三振、打者としては17打数6安打1本塁打6打点でベスト4進出に大きく貢献しました。大会を通して最も得たものはなんだったのでしょうか?
一番は、近江高校が全国で通用することを同学年の仲間や後輩にしっかり見せることができたことです。特に印象に残っているのは2回戦の大阪桐蔭戦です。自分の不甲斐ないピッチングで4失点してしまい、でも、先輩方がしっかり取り返してくれて、最後は抑えの先輩がしっかり締めるという戦いができた。野球の面白さが詰まった試合だったと思いますし、近江高校の野球だとも感じました。僕の原点のような試合です。
[Q]キャプテンはどういう経緯でなったのでしょうか?
夏の甲子園が終わった次の日に多賀監督から指名されました。今までは先輩に支えてもらっていましたが、キャプテンになったからには今まで支えてきてもらってきた内容を自分一人でやろうと決めました。少し気負い過ぎの部分はありますが、自分はそれくらいがちょうどいいのかなと思っています。キャプテンになって、責任感が増したと思います。
[Q]キャプテンとして個人的に立てた目標はありますか?
プレッシャーを全て自分が背負っていこう、ですね。自分はプレーでチームを引っ張るタイプです。だから、全てを背負って戦う姿を見せることでチームを引っ張っていけたらいいかなと考えています。
[Q]春のセンバツを振り返ってほしいと思います。急遽、出場が決まった時は率直にどんな気持ちでしたか?
正直、出場が決まった瞬間は素直には喜べなかったです。出場を辞退しなくてはいけなくなった京都国際さんのことを思うと当然だと思います。
[Q]その状態からどのように気持ちを切り替えたのですか?
翌日の練習では、甲子園で対戦する相手(長崎日大)に失礼な試合をしてはいけないと気持ちの矛先を変えました。そして、近江高校の野球をしようとみんなで話し合いました。それでも士気が高まったのは初戦の1日前でしたが、当日は〝さぁ行くぞ〞という気持ちに持っていくことができました。そして、長崎日大との競った試合を勝てたことで「自分たちはやれる」「甲子園でも充分に戦える」という自信を得ることができました。
[Q]センバツでは決勝まで4試合を戦いましたが、最も印象に残っている試合を教えてください。
準々決勝の金光大阪戦です。(代替出場校として初のベスト4など)いろんな記録がかかった試合でしたが、僕らとしてはとにかく秋のリベンジだと。近畿大会では6点リードをひっくり返されて悔しい敗戦をしていましたし、2度も同じ相手に負けるわけにはいかない。すごく気持ちが入った試合でした。
[Q]昨夏はベスト4、今春は準優勝と着実に階段を上がっていますが、今夏の目標を改めて聞かせてください。
みんなにも強く、オレたちが今年の夏は日本一になるんだと言っています。毎日のように言い続けています。それが唯一無二の目標です。
[Q]甲子園の頂点に立つためには、まず滋賀県大会の連覇が必要です。地方大会をどのように考えていますか?
僕自身は甲子園で勝ち上がるよりも滋賀県大会で優勝する方が難しいと思っています。昨年の夏を戦い、身に染みて感じました。夏は山場になる試合が必ずありますし、そこを勝ち切れるかどうかがポイントになると思います。もっと自分自身を追い込む意識をみんなが持ち、夏まで努力を続けることができればもっといいチームになると信じています。滋賀王者として受け身にならず、常にチャレンジャーの気持ちで滋賀県大会に挑みます。攻める気持ちを忘れずに戦うことができれば結果はついてくるはずです。
スポーツは筋書きのないドラマと表現されるが、彼の頭の中ではすでにシナリオはでき上がっているのかもしれない。ラストシーンは滋賀県勢初の甲子園制覇。その最終章がいよいよ幕を上げる。
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山田陽翔
近江高校硬式野球部
やまだ・はると。2004年5月9日生まれ、栗東市出身。栗東西中学校から近江高校へ。現在3年。治田西スポーツ少年団で小学1年から野球をはじめ、中学は大津瀬田ボーイズ(硬式)へ。2021年夏の甲子園はベスト4、2022年春のセンバツは準優勝。ポジションは投手。右投右打。ストレートMAX:148キロ。174㎝、80㎏。