2022.01.05

初のパラリンピックで銀メダル 軽量バイク選択が功を奏した 【トライアスロン】宇田秀生

オリンピック・パラリンピックイヤーとなった2021年。競泳・大橋悠依の金メダル2つをはじめ、パラ競泳・木村敬一の悲願の金メダルなど滋賀ゆかりのアスリートが躍動した。今年最後の号では、そんな晴れの舞台に挑んだ選手たちの秘話とともに1年を振り返る。題して「晴れの舞台裏」。

男泣きの、その理由

トライアスロン競技でパラリンピック日本人初の銀メダリストに輝いた宇田秀生(NTT東日本・NTT西日本)。レース後の号泣は日本、いや世界を感動させた。「いろんな人に恩返しできてよかったと思います」と大会を振り返る宇田に、まずはあの号泣の理由を聞いてみた。

「半分は、支えてくれた人や一緒に練習してきた仲間の顔が浮かんだからです。それは想像通りでした。あとの半分はホッとしたから。自分では意識していなかったけれど、相当なプレッシャーがあったんだと思います。解放されたというか、これでいいんやと思ったら泣いていた感じですね」

周りを気にせず、あれだけ号泣した経験は過去にありますか?

「いや〜、ほぼ無いです。そもそも普段は泣かないです。(種類は違うが)あんなに泣いたのは高校の時に彼女にフラれた時くらいやと思います(笑)。あれほどうれし泣きできる経験ってないと思いますし、幸せな経験でした」

失恋話と比べるのは微妙ですが。

「はははは。でも、いろんな方から、へぇ泣くんやねぇと驚かれました。あんなに泣いたら卑怯ですとも言われましたね(笑)」

スイムであせりも…

レースについて教えてください。最初のスイムでは1位の選手と約3分差の8位でした。それは想定内だったのでしょうか?

「1位とのタイム差は想定内でした。でも、8位は想定外。もう少し上の順位でスイムを終える予定でした」

大会前の本誌インタビューでは、スイムを終えた時点で前の選手の背中が見えていたら巻き返せるという話をされていました。実際はどういう状況だったのでしょうか?

「トップの背中は全く見えていなかったです。でも、それは最初からわかっていました。ただ、ある程度の差をつけておく予定だった選手が同じくらいのタイミングでスイムアップしたのは予定外。タイムは悪くなかったんですけど、その選手がこんなに近くにいることに対してちょっとあせりました。それだけ、ほかの選手が全開で来ていたということだと思います」

やはりパラリンピックは他の大会とは違うということでしょうか?

「だと思います。いつもバテない選手がスイムで突っ込み過ぎてバテていましたからね。やっぱり大きな舞台だから、いっぱいいっぱいで挑んでくる。スイムはそういう印象でした」

最も軽いバイクが要因

スイムであせりが出た中で、バイクでは2周目に5位浮上。ラスト4周で3位に。ここで表彰台が見えた感じでしょうか?

「そうですね。レース後に聞いたんですけど、バイクの最初5㎞のタイムは僕が1位やったんです。それはスイムのあせりが出たからだと思います。とりあえず、次のランのことは考えず、バイクは結構、踏みました」

でも、ランでもバテずに走れていたように思います。

「そうですね。意外と走れました。バイクを降りる直前は、もう足残ってないかなと思っていたんですけどね」

意外と走れた理由はなんですか?

「無観客とはいえ、(運営関係者など)沿道に人が居て応援してくださった。それはデカかったと思います」

応援されたら乗るタイプ?

「圧倒的に(笑)。でも、そういう応援の力を過去イチで感じたレースだったかもしれません」

では、今までどこのメディアにも語っていない銀メダル秘話を教えてください。

「えぇぇぇ!けっこういろんなメディアでしゃべってるから、あるかなぁ(笑)。でも、自転車のチョイスはよかったと思います。全選手の中で一番軽いバイクに乗っていたと思います」

いつもとは違うバイクですか?

「いえ、いつも通りです(笑)。でも、他の選手が平地仕様というか、直線仕様のバイクを選んできた中で、僕はコーナーでの立ち上がりとか、登りとかも考えていつもの軽いバイクを選らんだ。それが銀メダルの結構な要因だったと思います」

楽しくできるモデルケース

ありがとうございます。では、次の目標を聞かせてください。

「3年後のパリ2024パラリンピックです。また表彰台に上がって目立ちたい(笑)。まだ成長していますし、成長できるとも思います」

では、もっと先の、最終的にはどこに向かっていかれるのですか?

「最終的には、競技力だけではなくて、パラアスリートとして自立したい。それなりの生活をして、自由なことができるくらいの環境を作りたい。パラアスリートに対してだけではないですけど、そういうことができるんだよというのを示したいんです。活動費がなくて競技をやめちゃう選手もいるので。自分のプロデュース次第で、いやらしい話、お金も集められますし。そういう競技を離れた部分も活動も示していけたらいいなと思います」

完全に自立したプロアスリートになるというイメージでしょうか?

「ん〜。楽しくできるよってことを体現したい、というのが正しいかも。生活がきゅうきゅう(困窮)で競技を続けても…ちょっとね。今はそういう時代ではないですし、好きなことをやったらいいと思います。そういうモデルケースを作れたらいいなと思います」


冗談を交えながらも、熱く語ってくれた宇田秀生。彼がどんな人生を切り開いていくのか楽しみは尽きない。

宇田秀生

NTT東日本・NTT西日本

うだ・ひでき。1987年4月6日生まれ、甲賀市(旧信楽町)出身。雲井小学校、信楽中学校、水口高校、関西外国語大学卒。NTT東日本・NTT西日本所属。2015年ASTCアジアパラトライアスロン選手権(スービックベイ)で初出場初優勝を飾る。2015年12月からJTUパラトライアスロン強化指定選手に認定。2017年7月には世界ランキング1位に。東京2020大会が自身初のパラリンピック出場。

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