2021.09.14

五輪選考会を兼ねた日本陸上で 大学1年生が衝撃の初優勝 山本亜美

脅威の追い上げで初制覇

6月27日、東京2020オリンピックの日本代表選考会を兼ねた「第105回日本選手権」は最終日を迎えていた。ここまでの3日間で滋賀県勢は女子100mの壹岐あいこ(立命館大学)や男子円盤投の湯上剛輝(トヨタ自動車)が2位と健闘を見せたものの、優勝者は出ていない状況。その中で、女子400mハードルの山本亜美(立命館大学)が決勝に登場した。

ファイナリストには、昨年覇者のイブラヒム愛紗(メイスンワーク)や前日の予選で唯一56秒台をマークしていた宇都宮絵莉(長谷川体育施設)らそうそうたるメンバーが揃った。山本も予選で57秒04の自己記録(U 20日本歴代2位)をマークし、全体2位で決勝へと駒を進めていた。

初優勝も十分に狙える。その中で迎えた決勝では、順調にハードルをクリアし、7台目までは予定通りのレース展開だった。「でも、8台目が1歩多くなって、逆脚の踏切になってしまった」。それでも慌てずに残り3台のハードルをクリアし、最後は宇都宮をかわして見事な初優勝( 57秒30)を飾った。

「タイム的には56秒台を狙っていたので悔しい。でも、お世話になっている滋賀の関係者や高校時代の先生方に優勝する姿を見せられてよかったです」

東京2020オリンピックは参加標準記録( 55秒40)をクリアしていないため代表には選ばれなかった。だが、本格的に400mハードルを始めてまだ4年目。3年後のパリ2024オリンピックに向け、今回の初優勝は大きな試金石になった。

父の手作りハードル

京都橘高校で400mハードルに出会った山本は、高校2年の茨城国体で大会記録を塗り替えて優勝した。競技を始めてまだ1年少々。当時、京都橘の安田文彦監督は「技術的には下手。逆に言うと、伸びしろたっぷり」と評していた。

この頃に取り組んでいたのが前半5台を逆脚で踏み切るハードリング。高い技術が必要だが、ハードル間の歩数を17歩から16歩に減らすことで前半の加速へとつなげられる可能性があった。

そんな矢先、新型コロナウイルス感染拡大による自粛生活に入る。4月下旬にはインターハイ中止が決まり、山本は目標を見失いかけたという。その時に気持ちを支えてくれたのが、父親の手作りハードルだったそうだ。

「お父さんが16歩の踏み切りが練習できるようにハードルを作ってくれました。最初は3台。最終的には5台に。それを近所の広場に持っていって、ひたすら逆脚踏み切りを練習しました」

思い出の詰まった手作りハードルは今も実家に置いてあるという。

「インターハイ中止は悲しかったけれど、お父さんのハードルを見るとあの頃に頑張っていた自分を思い出せる。大切なハードルです」

大学1年生が起こした〝衝撃〞の過程には、家族との深い絆の物語があった。

山本亜美

立命館大学

やまもと・あみ。2002年4月19日生まれ、草津市出身。草津市立山田小学校、松原中学校、京都橘高校を経て立命館大学へ。現在1年生。姉の影響で中学1年から陸上競技を始めた。中学3年時には全国中学生大会200mで準決勝に進出。高校から400m、400mH(ハードル)を中心に活躍。高校2年時には10月の茨城国体・少年女子共通400mハードルで優勝(京都高校記録)。高校3年時はコロナ禍でインターハイが中止になったが、10月の日本選手権400mHで4位に。今年6月の日本選手権では同種目で初優勝。160㎝、48㎏。

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