2020.09.04
この一漕ぎにすべてを 瀬田工業高校ボート部
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、全30競技で高校日本一を決める全国高校総体(インターハイ)が史上初の中止となった。
悲しい、悔しい、何も手につかないなど、さまざまな声が聞かれるなか、インターハイ県予選の代替大会が行われた。
高校3年間の集大成、競技人生のラスト、次のステージに向けた挑戦など、各々がさまざまな想いで特別な夏を迎えた。
全国区の瀬田工クルーが喜びを爆発させた理由
ボート競技の男子舵手付きクォドルプルは、前評判通り瀬田工業高校Aが優勝した。2位の膳所高校Aとは約14秒差という圧勝(3分03秒78)。ゴールの瞬間、クルーの5人はガッツポーズで喜びを分かち合った。
清々しい光景だが、少し違和感もあった。インターハイでも上位を狙えた彼らが、県内の、しかも全国につながらない代替大会に勝って大喜びしたからだ。U19日本代表の宮口大誠(3年)は、その理由をこう説明する。
「5人のうち3人は大学でも競技を続ける予定ですが、あとの2人は高校が最後。インターハイと国体が中止になり、2人にとっては今回のレースが競技人生のラストになります。だから、みんなで最高のレースをしようと話し合って大会に挑みました」
その気持ちが反映されたような好レースだった。スタートから500mまで順調に加速し、ラスト250mからラストスパートをかけて一気に1000mを漕ぎ切った。
かじ取り役のコックス(舵手)としてクルーを引っ張った安土潤(3年)は、うれしさよりも「ほっとした」気持ちの方が強かったと言う。
「中学から漕ぎ手として練習してきた。でも、実力不足でメンバー入りは厳しかった。それもあって今回はコックスを務めた。競技人生で初めての経験。自分の判断ミスがレースを台無しにするというプレッシャーが
あった。だから、無事に優勝できてほっとしました」
安土にとっては今回が高校最後の大会であり、競技人生のラストレースだった。
今回のメンバー5人は中学からしのぎを削ってきたライバルたちだった。3人が瀬田北中学出身で、2人は瀬田中学の出身。瀬田川育ちの同級生が一つの艇を操って有終の美を飾ったのは、一つの奇跡と言えるかもしれない。
「展開といい、スピードといい、ベストレースでした」(宮口)
5人が拳を突き上げた裏には、特別な夏の物語があった。
(安土潤・宮口大誠・深田健太・宗宮奨永・野村裕貴)