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2019.01.25

視覚障がい者マラソン 近藤寛子をサポートする。

指導者として、ボランティアとして、親として…。
スポーツは選手だけではなく、支える人たちの助けがあって初めて成立するもの。
連載「SUPPORT OF SPORTS(SOS)」では、そんな縁の下の力持ちにスポットを当てていきます。

ただ速いだけでは務まらない伴走者という名の〝アスリート〞

2016年のリオデジャネイロ・パラリンピック視覚障がい者女子マラソンで5位入賞を果たした近藤寛子(滋賀銀行)。 網膜色素変性症を発症し、視界は右目がストロー・左目は針の穴ほどしかないという。ゆえに、彼女がレースを走る際は、いつも伴走者と呼ばれるランナーが寄り添う。 2人をつなぐのは短い1本のロープだけ。あとは「段差がある」 「地面が濡れている」 といったコースコンディションや通過タイムなどの情報を声で伝え、近藤のレースを支えていく。 伴走者の力量がレース結果を左右すると言っても過言ではない。

近藤の場合、レース伴走者は2人いる。 前半担当の金子太郎と後半担当の川嶋久一。 昨年2月から伴走者になった金子は、比叡山高校から東海大学を経て、実業団の佐川急便(SGホールディングス)で活躍した長距離ランナー。 大学時代は主将として箱根駅伝も走っている。 近藤の強い味方だ。

「でも、実は2年前に一度、近藤さんの伴走をしたけれど、その時はフィーリングが合わなくて次のレースは声がかからなかった。 ただ、その後に北大津養護学校に勤めるようになって、生徒と向き合う中で相手を思いやる気持ちが芽生えたというか…。昨年2月から伴走していますが、やっぱり2年前とは近藤さんへの接し方が変わっていると思います。 あの頃は、わがままな走り方でした(笑)」

ただ速いだけでは務まらない。 伴走者の奥深さが垣間見られるエピソードだろう。

もう一人の伴走者である川嶋と近藤の付き合いは2005年に始まる。初マラソンは翌年3月の京都丹波ロードレース(丹波マラソン)。 その時のタイムは4時間少々。 2016年に出した自己ベストは3時間18分05秒。川嶋は「どんどん速くなる彼女についていくのに必死だった」と振り返る。

「ハーフマラソンなども含めれば年間10レース以上は一緒に走ります。 それを13年続けてきた。 顔色を見ればその日のコンディションがわかりますし、苦労も感じたことはない。 ただ、私も年齢を重ねてきたのでね、自分の走力を維持するのが難しくはなってきました(笑)」

強い絆は不可欠だが、それだけでも伴走者は務まらない。 アスリートを支えるには、自分たちも日々努力しないといけないわけだ。

2016年2月の 「第67回別府大分毎日マラソン」 で優勝し、リオデジャネイロ・パラリンピック出場を決めた後、川嶋は溢れる涙を止められなかった。 その涙には近藤への祝福、アスリートとしての達成感の2つの意味があったのかもしれない。

玄関を開けたら誰かがいるこんな恵まれた環境はない

改めて言う必要はないが、近藤が走る際は伴走者が不可欠。 それはレースに限らず、毎日の練習でも同じこと。 だが、金子と川嶋が日々の練習に全て付き合うのは難しい。 伴走者が〝職業〞ではないからだ。

だから、チーム近藤には 「朝練組(あされんぐみ)」 と呼ばれる4人ほどのサポートメンバーがいる。 文字通り、レースを走るのではなく朝の練習に付き合う比較的ご近所の方々だ。

その一人、曽野政男は 「メガネの田中」 からサポートを受けるプロシニアランナー。 2017年のワールドマスターズゲームズでは10㎞マラソン60-65歳の部で金メダルに輝いた実力者。そして近藤と同じ栗東市在住。 「走りに対する考え方が似ている。 一緒に走っていて楽しい」 と朝練組に加わった。

「今はレースの伴走はしていない。軽い気持ちで申し出たらえらい目に会うくらい近藤さんは速いですからね(笑)。 でも、川嶋さんや金子くんに何かあった際には、自分が代わりに伴走できるように準備しておこうとは思っています」

朝練では約7㎞をゆっくりと、おしゃべりしながら走るという。 ガチガチのトレーニングというよりは、心身のリフレッシュが目的のようなところがある。 昨年6月から朝練組の仲間入りをした田口亜季は 「マラソンの話が主ですが、グルメネタも話します。 近藤さんは食べることが好きなので。 あとは…たまに川嶋さんへの愚痴とか(笑)」 と会話の内容を打ち明ける。

そして田口は、近藤との出会いによって、走る楽しさを再び取り戻したと話を続ける。

「中学・高校と陸上部で中距離走をしていました。 でも、しばらくは離れていて…。 知人の紹介で近藤さんと走るようになって、エネルギーをもらったというか、とにかく楽しいと思えるようになった。 昨年は近藤さんに〝一回、地獄を見ておいで〞って言われて、フルマラソンにも挑戦したんですよ」

チーム近藤には〝支えてもらっている〞あるいは〝支えてあげている〞といった主従関係のようなものは感じられない。 どちらかといえば、一緒になって走ることを楽しんでいる印象である。

だが、近藤本人は 「みんなに感謝しきれない」 と語気を強める。

「だってね、私だけでは朝練一つできない。 それなのに、毎朝、玄関を開けたら誰かが待ってくれている。 これほど恵まれた環境はないですよ。レース伴走者の川嶋さんや金子くん、曽野さんや田口さん、その他の朝練組のみんながいて、初めて私の挑戦は成立する。 だから、チーム近藤で東京パラリンピックに行きたいんです」

東京パラの選考レースはおそらく8月の北海道マラソン(原稿作成時は未定)。 チーム近藤がラストスパートをかける日が近づきつつある。

視覚障がい者マラソン チーム近藤
[Team Profile]
リオデジャネイロ パラリンピックの視覚障がい者女子マラソンに出場した近藤寛子選手(滋賀銀行)のサポートメンバーを“チーム近藤”と称す。

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