2026.02.13

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分岐点は世界ジュニア

 大津市在住の中西 凜(京都光華SC)が「ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピック」出場を決めた。種目は〝雪上の格闘技〞と呼ばれるスキークロス。柔和な笑顔からは想像しにくいが、押し合いへし合いの激しい世界が彼女の主戦場だ。

 スキークロスのルーツは1990年代初頭にさかのぼる。当時アメリカを中心に流行っていたモトクロスやBMXスポーツの競技フォーマットを、スノーボーダーたちが雪上へ持ち込んだのが始まりだ。1998年から国際スキー連盟(FIS)がこのフォーマットを採用し、スキークロスのワールドカップがスタートした。そして2010年のバンクーバー(カナダ)大会からオリンピック正式種目に。その6年後の16年に中西はスキークロスに出会った。

「中1になる春にスキークロスの草大会みたいなものに出場しました。その時に〝うわっ、楽しい〞ってなって…。でも、その時はまだ〝かじる〞程度(笑)。中学を卒業するまではアルペンがメインで、本格的にスキークロスを始めたのは高1からです」

 スキークロスに転向した理由は、16歳から国際スキー連盟の公式戦に出場できるから。海外に活動拠点を移し、高校1年の成績を受けて高校2年から日本代表に選出。翌年には世界ジュニア選手権(世界ジュニア)に初出場し、男女合わせて国内初となる6位入賞を果たす(国内最年少記録)。23年にはFISU冬季ワールドユニバーシティゲームズで男女合わせて国内初の優勝に輝き、その後もドイツ選手権優勝、オーストラリア・ニュージーランドカップ総合優勝などの好成績を残す。そのほかにも男女合わせて国内最年少でワールドカップ初出場を果たすなど数々の金字塔を打ち立てて、今年、男女合わせて国内最年少でミラノ・コルティナ2026冬季オリンピック出場を決めた。

 このサクセス・ストーリーの中で、中西がターニングポイントに挙げるのが22年の世界ジュニアである。

「(字面では)23年のワールドユニバーシティゲームズ優勝の方がインパクトは強いと思います。でも、自分の中では勝ちに行った大会というか、あまり強い選手が出ないのも知っていましたので優勝できるだろうなと思っていました。それよりも前年の世界ジュニアの方が自分の中では大きいです。結果は6位でしたけど、何かが変わった気がします。自分の実力以上というか、100%に近い状態を出せた大会でした。その頃は同年代でも10番手くらいのレベルだったと思います。実際、世界ジュニアの予選もヒートの中で一番遅い選手でした。でも、逃げ切って予選を2番で通過した。しかも、当時の自分では勝てないはずの相手に勝つことができた。それまではヨーロッパカップを回っていても同年代の選手たちと対等に戦えていないと感じていましたが、世界ジュニアを境に自分も『この年代でちゃんと戦えている』と実感できるようになりました」

 スキークロスは4人で順位を競う種目。練習もレース形式の方が感覚をつかみやすいのだが、「遅いと一緒に滑ってくれない」らしい。世界ジュニア以前の中西は周りの選手に声をかけても断られていたが、世界ジュニアの後は向こうから声がかかるようになった。

「(速いと)認められたのだと思います。そこから、ちゃんと練習できるようになったというか、実のある練習ができるようになりました」

 世界ジュニアを機に周りの評価が変わり、中西はヨーロッパカップなどで安定した成績を残せるようになっていった。


撮影:古野哲也

2つ目のアイテムが勝敗のカギ

 スキークロスはライダー4人が同時にスタートし、ジャンプ、ウェーブ、バンク(傾斜)付きのターンをクリアしながらフィニッシュラインをめざす。そして各ヒートの上位2名が次のラウンドへと進むノックアウト方式で行われる。

 レースの中で重要になるのがスタートセクションだ。良いスタートを切れば、それだけ良いポジションを取れるからである。そして中西の強みはスタートだ。

「スタートセクションが得意というよりは、最初の山ですかね。リアクションタイムと言って、一つのアイテム(山)を越した時の反応速度が測れるんですが、昔からそれはめちゃめちゃ速かったです。でも、こだわりというか、気を使うのは2つ目のアイテムです。どんな形をしていて、どうすればスピードが乗るかはここで決まるからです。スタートのバーの高さを細かく調整したり、力の入れ方を変えてみたり。とにかく2つ目のアイテムのことを考えます」

 世界ジュニアの中西はスタートで優位性を出して好成績を収めた。初のオリンピックもスタートセクションがカギを握るのは間違いなさそうだ。

4年後の金メダルに向けて

 中西はオリンピックに向けた壮行会で「オリンピックかぁ、まだ実感がないです」と話した。真意を聞くと「4年後や8年後のオリンピックで金メダルを取ることが目標だからです」と彼女は答えた。

「もちろん、今回のオリンピックをめざしてやってきたんですけど、まだ自分がその舞台に立つことに現実味がないというか。どんな舞台なんだろうかと、頭の中は『?』でいっぱいです。オリンピックに関してはもともと次の30年や34年の大会で金メダルを取ることを目標にしてきました。なので、今回はメダルにこだわるのではなく、オリンピックという大舞台の中で自分の滑りを100%出すことが目標です。極端な話、周りの選手より遅くても、全力を出せればそれでいいかなと。絶対に緊張はすると思いますし、その中で楽しんで、自分のできることを精一杯する。それが、次やその次のオリンピックに必ずつながると思います。なので、今回は100%を出せるようにがんばってきます」

 世界ジュニアで100%を出せたことで中西をとりまく環境は変わった。初のオリンピックで100%を出せれば、きっと次のフェーズに進むことができるだろう。

 とはいえ、劇的ドラマが起こるのがオリンピックであり、スキークロスだ。

「でも、スタートで前に出られれば…」

 中西は最後にそう付け加えた。優しい瞳の奥に、何か熱いものがたぎった。

 ※サムネイル写真 撮影:尾形峻

中西 凜

京都光華SC

なかにし・りん。2003年8月6日、アメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルス生まれ。野洲市出身。北野小学校、野洲北中学校、光華高校を経て佛教大学通信課程在学中。小学3年から「びわこバレイジュニアスキーレーシングスクール」でアルペン(大回転)を始めた。中学に上がる前にスキークロスと出会うも、中学卒業まではアルペンを続ける。高校1年からスキークロスに専念し、日本代表に選出。2022年の世界ジュニア選手権で6位入賞。2022-23シーズンにはオーストラリア・ニュージーランドカップのシリーズチャンピオンに輝き、FISU冬季ワールドユニバーシティゲームズで優勝。2023-24シーズンもドイツ選手権優勝をはじめ、オーストラリア・ニュージーランドカップ総合優勝、2024-25シーズンにはワールドカップ・カナダ大会において初のスモールファイナル進出など安定した活躍を見せた。ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピック日本代表。

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